10/19(水)ドラフト前夜

10月19日(水)19時——。鳴尾浜球場


「しかし、どこもかしこも公表かぁ。これじゃあ、全然面白くないよな……」


練習が終わった後の監督室で、スマホに表示されているニュースを読みながら呟いた。


「確か……7球団でしたっけ?公表しているのって」


「さっき、スネークスとバードズも公表したから、これで9球団だ……」


ミスターの問いかけに、訂正を入れて答えた。それにしても、この9球団、示し合わせたかのように、どこも指名予定選手がかぶっていない。


「それで、うちは結局誰を指名するんですか?」


今度は豊原コーチが訊ねてきた。もちろん、知り得る立場にないため、答えようがない。球団からは、「あとはシリーズの事だけ考えてくれ」と言われているし、明日の会議に臨むのは、島谷新監督なのだから。


「……でも、もし辛井さんなら、誰を指名しますか?」


そのときミスターが言った。もちろん、ここだけの冗談話と前置きして。だから、少し考えて答えた。


「俺だったら……朝野だな」


高校生ではどう見ても№1の強打者だ。ネットでは、松生を押す声が上がっているが、誰がどう見ても注目度が高いのは彼だ。そこを見ないふりするのは良くないと。


「それに、このままだとラビッツに行っちゃう可能性が高いだろ。あの1億円監督の喜ぶ気持ち悪い顔とグータッチ、テレビ越しとはいえ見たい?」


「……いえ、見たくはないですな。想像しただけでも……ああ、キモチワルイ」


ミスターは心底気持ち悪そうにして言った。


「だから、青少年の健全な育成のためにというのを大義名分に掲げて、俺ならあえて重複覚悟で指名するかな。それに……あちらさんもうちのGM並にくじ運が悪いから、案外当たりくじが残っている可能性もあるしね」


今季優勝したから、くじ引きは最後に引くことになる。そう考えれば、秦監督がハズレくじを引いてしまえば、箱の中には当たりしかないのだ。例えあのGMであっても、それならば外しようはない。


「まあ、そういう理由で俺ならそうするかな。ただ……島谷新監督にはもしかしたら違う考えもあるかもしれないから、どうなるかは当日のお楽しみということで……」


運命のドラフト会議は、明日17時より始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る