10/18(火)トレード内定

10月18日(火)15時——。鳴尾浜球場


「はい、辛井ですが。……ああ、原田副社長。今日は……えっ!?」


その告げられた言葉に驚き、固まった。


——工越と才藤のトレード。相手はミルキーズの渡部と嵩浜だ。


もちろん、チームはまだ日本シリーズが残っているから、今日の時点では内定ということらしいが……今シーズンをまだ戦っている側とすれば、あまり愉快な話ではない。


『そないなことはわかっとるが、どうせシリーズでは使わへんやろ?こっちは、ドラフトのこともあるんやから、わかってくれや』


原田副社長は、他球団に取られる前に手を打ったと説明した。すべては、来シーズン連覇を果たすために。


「……わかりました」


自分のいない来シーズンの話を持ちだされると返しようがない。ゆえに、承知したことを伝えて、受話器を切った。ため息をつくと、ミスターと白原さんが駆け寄ってきた。


「どないしたんや?」


「トレードだそうです。工越と才藤を放出して、ミルキーズから渡部と嵩浜を獲得すると……」


白原さんの問いかけに、事実をありのまま伝えた。そして、訊ねる。率直なところどう思うかと。


「まあ……妥当な所やないか?工越はワシもこの目で見たが、このままキャッツに居ても才能が覚醒するとは思えんわ。環境が代われば、覚醒するかもしれへんけど、リーグは違うから対戦も少ないし、大した問題ではないやろ」


白原さんははっきりそう言った。


「あと才藤は、今シーズン序盤の低迷の象徴ですから、全然惜しくないのでは?球が160キロ超えて先頃話題になっていたようですが、あのメンタルの弱さでは使えないのはご承知の通りで……」


「確かに、ピンチの場面では目が泳いでいるよな、才藤は……」


続けて言ったミスターの言葉に同意した。あのメンタルの弱さでは怖くて使えない。次の島谷監督がどうするかはわからないが、いればあの球速を惜しんで使いたくなるかもしれない。そう思えば、チームのためにはいなくなってもらった方が都合がいいわけで。今回のトレード話は渡りに船だろう。


「まあ、どちらにしても、来年いなくなる俺たちには関係がないか……」


「そうですよね」


共に辞めるミスターは少し寂し気に言った。一方、来年も打撃コーチを続投する白原さんは、「他人事みたいに言いやがって……」と苦虫を潰したように呟いた。

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