10/12(水)対バードズ勝利 5-2 【2勝0敗】
10月12日(水)18時半——。鳴尾浜球場
「おいおいおい!今のは振ってないやろ!!」
白原さんがベンチから飛び出して、1塁審判の山痔に詰め寄る。1回裏、1OUT1,2塁、バッターは4番原田。フルカウントの場面で振りかけて止めたハーフスイングを山痔審判はスイングと判定した。完全に止まっているにもかかわらずにだ。
「今のは誰が見ても止まっとるやろが!さては、見てなかったやろ!」
「た、た、た、退場!!」
「はあ!?何でわしが退場なんや!このくそボケ審判が!」
激高した白原さんは、山痔審判の胸ぐらをつかむ。そして、怒りのままに殴ろうとするところをコーチたちと共に止めた。
「離せ!辛井!このヘボ審判は、嵩津に買収されとんのや!せめて、一発殴らせてくれ!」
「ダメですよ!来季の契約無くなりますよ!」
「離せ!それでも構わんから、殴らせてくれ!」
駄々をこねるように叫ぶ白原さんをコーチたちが何とか連れて行き、この場には山痔審判と自分、そして、騒ぎを聞いて駆けつけた他の審判たちが残った。
「それで、山痔さん。今のはどういうわけでスイングと?」
主審の白猪が訊ねた。どうやら、彼も誤審だと思っているようだ。
「そんなん、ワシがそう思ったんやから、別にええやろが!」
しかし、山痔は全く取り合おうとせず、あくまで自分の非を認めない。その言葉にカチンとくる。
「なんですか、その態度は。ちゃんと説明してくださいよ。これだけの騒ぎになってるんですから」
スタンドからは激しい「山痔、帰れ!」のコール。声出し禁止のはずだが、収まりそうにない。
しかし、彼は無視をしてその場を立ち去ろうとする。
「おい!待てよ。話は終わってないだろうが!」
そして、つい彼の肩を掴んでしまった。
「た、退場!」
「はあ!?」
山痔審判は、自分を指差して退場を宣告した。その態度に堪忍袋の緒が切れた。
「何だ!その態度は!」
そして、気がつけば、彼を突き飛ばしていた。
「辛井さん!落ち着いて!怒りはごもっともですが、暴力はまずいですよ!」
白猪球審にそう言われて、少しは理性を回復するが、納得はできない。
「おい、尾山!引き上げてこい!」
バッターボックスに向かおうとして止まっていた尾山にそう言った。こんな状態では、試合を継続することなんて無理だ。
「ちょ、ちょっと、本当に落ち着いてください。放棄試合になってしまいますよ?」
ベンチ前まで白猪主審はやってきて、何とか再開して欲しいと訴えるが……
「構うか!あんなヘボ審判に下駄預けるくらいなら、9-0とでもしたらええやろが!」
そう言って、選手全員にベンチ裏に引き上げさせた。しばらくすると、百南球団社長も説得に来たが、耳を貸さない。
「頼むよ。放棄試合したら、罰金が……」
「そんなん、親会社に出してもろたらええでしょ!」
今年はどんだけ使っても構いませんでしたよね、というとすごすご引き下がって行った。
そして、時間にして30分が経過したころ……
「辛井さん、山痔は交代させますので、戻って頂けないでしょうか」
ようやく審判団が折れたのか、白猪球審がそう言って説得に訪れた。
「判定や退場処分については?」
「……それについては、申し訳ありませんが変わりません。但し、山痔審判は先程審判部から解雇を通告されましたので、それでご容赦を……」
いつもの傲慢な態度が嘘のように、彼は誠実に頭を下げてくれた。それなら仕方がないと思い、承諾する。
「ミスターを監督代行に。みなさん、あとはお願いします」
ベンチ裏に集まった選手、コーチにそのように告げて、白原さんが待つ監督室へと向かう。この先は寂しく二人でテレビ観戦だ。
「尾山!坂藤!わかってるな!辛井さんと白原さんのためにも、絶対打ってこい!」
「「はい!」」
去り際、後ろからそのような声が聞こえてきたような気がした。彼らが2者連続ホームランをバックスクリーンに叩きこんだのは、この直後の話だった。
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