10/9(日)紅白戦2日目
10月9日(日)16時——。鳴尾浜球場
「なんや、おどれら!野球なめとんのか!」
2日目の紅白戦が終わった後、白原コーチの怒鳴り声が響き渡った。両軍合わせてわずか2安打。確かに投手陣は12球団でもトップクラスとはいえ、あまりにも情けない姿だ。
「特に遠本!あれは何や!1OUT3塁で、なぜ初球に手を出す!おまえは足が速いんやから、スクイズのサインを出そうと思っとったのに、あれじゃ作戦も何もあったもんじゃないやろが!」
「す、すみません……」
そう指摘しているのは、7回表1OUT3塁の場面で初球を力ないサードファールフライを打ち上げたことだ。
「しかも、3塁ランナーも足の速い仲能なんやから、叩きつけるべきやろが!それをなんも考えんと打ち上げて……!本番でそれやったら、淡路に泳いで帰らせるからな!」
「は、はい……気を付けます……」
遠本は項垂れて返事を返した。これで遠本への説教は終了したが、白原さんの怒りの矛先は他にも向いた。
「尾山、坂藤、原田!」
「「「は、はい!」」」
「おまえらは、ホンマ空気やな。3人で昨日から何本ヒット打った?ああ、言っとくが磐佐のやつは除いてやぞ。あんなションベンボールなんぞ、打ってもなんも自慢できるもんやないからな。……で、坂藤、どないや?」
「……磐佐さんのを除けば、3人で1本です。すみません……」
坂藤は3人を代表して答えて、謝った。しかし、白原さんは許さない。
「それなら、おってもおらんでも一緒や。CSは、3番雨柳、4番尼子、5番ユンケルのクリーンナップで臨む。おまえらは、フェニックス行きや」
「「「えっ!?」」」
3人は合わせるように驚き声を上げた。フェニックスとは、明日から宮崎で始まるフェニックス・リーグの事だろう。行けば、CSの出場はない。
「し、白井さん。いくらなんでも流石にそれは……」
ミスターと共に駆け寄って慌てて止めようとする。
「辛井よ。こいつら並べても、このままじゃ打たれへんぞ。まだ、雨柳らの方が可能性があると思うんやが?」
「いやいや、いくらなんでもそれはないでしょ!大丈夫だよな、3人共。取り合えず、明日の紅白戦では結果出してくれるよな?」
「は、はい!もちろんです。今日は打てずにすみませんでした!」
「「すみませんでした!」」
尾山らはそう言って頭を下げた。すると、白原さんはニカっと笑って言った。
「よし!それならやることはただ一つやな。辛井、この3人連れて行くぞ。あと、遅くなるから、球場関係者に話を通してもらえんか?」
「わかりました。どうぞ、ごゆっくり」
どうやら、これから打撃練習でもするのだろう。白原さんは3人を連れてベンチ裏に消えた。向かう先はおそらく室内練習場だ。
「さて……あとは小寺君のことだが……」
彼は今日、折角抜擢したにもかかわらず、全く結果を残せなかった。しかも、2打席も3ボールまで行っておきながら、三振とはいただけない。
「次のチャンスは果たして巡って来るかな?今日が彼の野球人生活の上でラストチャンスだった……ってこともあるんだよね、この世界では」
そう呟いて、ミスターに彼をフェニックスに送るように指示した。数年後に年末特番に出ていないことを願いながら。
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