10/7(金)ウサギはより黒く汚れるようです。

10月7日(金)15時——。鳴尾浜球場


「お、やっとるなぁ」


「これは、越智さん。どうしたんですか?取材か何かですか?」


CSに向けて、グランドでは選手たちが練習している中、次期ヘッドコーチに内定している越智氏が現れた。


「いやねぇ、来年の組閣のことで、白原君と話があるんだけど、彼、いるかい?」


「ええ、白原さんならそこ……ゲージの裏に」


そう言って、坂藤の打撃練習を見守る彼の方を指差した。越智氏は「ありがとう」とだけ言うと、そのまま進んだ。


「一体何なんだ?」


そう訝しく思っていると、ミスターが言う。


「もしかしたら、来季もコーチをやってほしいというのでは?」


「えっ!?」


驚きのあまり思わず声を上げてしまった。


「でも、俺たちと共に辞めるって話じゃ……」


「昔、師弟関係にあったと思うので、慰留する可能性はあるかと」


その言葉に、「そうなのか」と思わず唸った。


「それに、今朝のニュースでは、ラビッツはパワハラの大窪と二重婚のタンバリン・鈴城をコーチに入れるそうなので、アウトローどもによるヤジ合戦に対抗するために必要と判断されたのかも」


確かに、白原さんなら負けてないなと思う。あの豪快なヤジにその行動力は、最後こそ行き過ぎて仲違いすることとなったが、大いに助けられたのも事実だ。大窪やタンバリンごときなら、チビって目を逸らすに違いない。


「それにしても、秦監督も無茶苦茶だな。いくら阪本の中DV・中絶スキャンダルを世間の目から隠したいからって言って、よりチームを黒くしてどうする……」


「本当にそうですよ。最も、過去のスキャンダルをもみ消すためにやくざに1億円払った監督が一番真っ黒ですから、初めから無茶苦茶と言えば無茶苦茶なんですがね……」


ラビッツは紳士たれと言った初代オーナーはきっとあの世で泣いているだろう。もしかしたら、最近大雨が降るようになったのは、雨柳のせいではなくて、そちらの涙雨のせいかもしれないな……。


「まあ、辞める俺たちには関係ないことか」


「ええ。まったくもって、そのとおりかと」


お互いそう言い合って笑った。ファイナルステージ最大6試合、日本シリーズ最大7試合。最大でも13試合しか、今シーズンは残っていないのだ。そして、そのあとは退任……。


キャッツのことも他球団のことも、その先は胃をキリキリ痛める材料にはならない。


「ドラフト会議は、島谷新監督が出席するそうだし、あとは悔いなく戦い抜くだけですね。残りわずかですが、よろしくお願いしますね」


「はい、こちらこそ」


そして、ゲージの方に目を向けると、越智氏は嬉しそうな笑顔を見せて、白原さんが頭を下げていた。どうやら、話はまとまったようだった。

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