10/6(木)14年前の借り
10月6日(木)18時——。広島
「なんか知らんけど、辛井、ギョッズの監督候補になってるんやてな」
突然かかってきたキャッツ・原田元監督からの電話に、思わず固まった。何か嫌な予感がする。そんな気がして。
「ま、まあ、今朝のニュースに流れてましたけど……具体的にはまだなにも……」
取り合えず、当たり障りのない答えを返しながらごまかした。……実の所は、さっき松本オーナーから電話があって、「来年から3か年頼みたい」と監督就任要請を受けたばかりだが。
「そうか。ほな、来年頼むで。2軍打撃コーチや」
「えっ!?」
いきなり何を言ってるのだろうかと戸惑い、声を上げた。すると、原田元監督は言った。
「しゃあないやろが。おまえは裏切りもんや。いきなり、1軍というわけには行かんやろ」
だから、2軍監督に就任する川玉を支えて欲しいと。
「ちょ、ちょっと待ってください!じ、実は……先程、ギョッズの監督のオファーがありまして……」
こうなっては隠すことはできないと思い、正直に打ち明けた。これで、諦めるだろう、そう思っていたが……
「そうか。ほな、それ早よ断れや」
「えっ!?」
思わぬ答えが返ってきて、驚いた。
「い、いや……それはいくらなんでも……」
「何言うとんねん。おまえ、俺に借りがあるやろ?誰のせいで、13ゲーム差まくられたと思っとんのや?」
その言葉にかつての記憶がよみがえる。忘れもしない北京五輪直前のこと。原田監督が止めるのを聞かずに北京に行って、腰の骨を折って……そして、チームはV逸。監督は責任を取って辞任したが、あのとき監督の説得に応じていれば、そのようなことにはならなかったのは事実で……。
「せやからな、今こそその借りを返せっちゅうとんねん。わかるやろ?子供やないんやから、その意味は」
はあ、と思わずため息が出た。本音で言えば、キャッツの2軍コーチよりもギョッズの1軍監督の方を取りたい。取りたいが……あのときの借りを持ち出された以上、引き受けざるを得ない。
「……わかりました。お引き受けいたします」
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