9/30(金)来期は移籍?
9月30日(金)15時——。鳴尾浜球場
「それで、本当にメジャーに挑戦したいのか?」
ブルペンで投げていたところを呼び止めて、辛井は思い切って訊ねてみる。一昨日に封じられた『桐浪、ポスティングでメジャー移籍を希望』というニュースについて、どれほど真剣なのかと。
「もちろん、本気っスよ。ノーコンにもかかわらずここまで置いてくれた球団には感謝してますが……」
それでも若いうちにチャレンジしたいという桐浪。但し、球団がノーと言えば、その夢は叶わないのだが……それでも彼は言う。必ず説得して行ってみせると。
「だが、メジャーでぶつけたらシャレにならんぞ。あの田黒なんかより、もっと怖いヤツがゴロゴロいるのに大丈夫なのか?ハドソン川に浮いていた……なんてニュース、聞きたくないぞ」
「う……それを言われると、ビビりますね」
「だろ。だから悪いこと言わんから、残留しておけ。ずっと下がり続けてきた年棒も、今年は大幅アップを見込めるわけだし、来季もうちの守護神としてがんばってくれよ」
そう言って辛井が頭を下げると、桐浪は笑い出した。
「なぜ笑う?」
「だって、辛井さん。今年で辞めるんでしょ。だったら、来季の事なんか関係ないじゃないですか」
桐浪は、そのことをはっきりと指摘して言った。第一、守護神に起用したのは辛井の考えであって、新監督である島谷には関わり合いのないことだ。もしかすると、先発で起用したいと思っているかもしれない。つまり、辛井の言に乗って残留しても、何の保証はないのだ。
「まあ、それはそうだが……」
辛井はポケットに入れていた手帳から、1枚のカードを差し出した。そこには、『大阪日日新聞社 野球評論家』の肩書が書かれていた。
「まあ、おまえがキャッツを退団すると売り上げが減るらしいから、編集長から引き留めてくれって言われてな……」
辛井は少し言いずらそうしてそう告げた。すると、桐浪は呆れたように言った。
「もう転職先決めたんスか。まだ日本シリーズもあるのに……」
「だって、残り枠1つだったからな。すぐに申し込んだよ。もちろん、相手は驚いていたけどな。まあ、誰か知らないが、辞退した人がいたらしくて助かったよ」
その時どこかで、くしゃみをする音が聞こえた。
「しかし、よくバラされなかったですね」
「別にバラされてもよかったんだが……何しろ、17年ぶりの優勝だったから、ファンの恨みを受けたくないってね」
「確かに、それで失速したら去年のテレビ局のように吊るしあげられますね……」
「まあ、そんなこんなだから、来年も残留してくれないかな?」
「いいとも……って言うわけないじゃないですか!」
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