9/29(木)常勝チームを目指して
9月29日(木)18時半——。東京
「……それで、今日は何の用で。現役復帰の夢が破れたわたしを笑いに来たのですかな、原田さん」
ようやく約束した寿司屋に現れたスネークスの元監督である越智さんは、開口一番そう言った。何しろ、今年は春先からユーチューバーになって、来年の監督復帰をアピールし続けてきたのだ。しかも、キャッツを半ば名指ししたように。ゆえに、どこか悔しそうだ。
「言っておきますが、わたしは監督しませんよ」
「えっ!?」
報道が間違っていることをはっきりと伝えると、越智さんはとても驚いた顔をした。憎ったらしい程、いつも余裕をこいているこの男でもこんな顔をするのかと、逆にこちらも驚く。
「それなら、誰が次の監督に?」
当然のように訊ねてくる彼の質問に答える。「次の監督は、島谷だ」と。
「それはまた……思い切ったことをしますな」
「まあ、今年優勝できたからできることでしょうがね。これでファンもしばらくは大人しくなることでしょうし」
グラスにビールを注ぎながらそう告げる。合わせて自分は球団副社長となり、GMのような仕事をすることになることも含めて。
「……で、そんな副社長殿は俺に何を求めてる?」
同じようにビールをグラスに注ぎ返しながら訊ねる越智さん。だから、答えてやる。
「来年、できれば再来年まで、ヘッドコーチになってもらいたい。客寄せパンダの監督をあなたの手で一人前にしてもらいたいんだ」
「ほう……」
それもまた思い切ったことだなと、越智さんは感心するように言った。
「だが、そんなことをすれば、キャッツファンから顰蹙を買わないか?オレンジか青の血は必要ないって……」
「勝てば黙るはずだ。とにかく、勝利に対するこだわり。これを島谷新監督に伝授してもらいたい。あなたならわかっているはずだ。今年、優勝したとはいえ、それはコロナでバードズが勝手にこけたからだと。このままでは、来期は優勝できないと」
昨日、桐浪がポスティング移籍を志願したことが明らかになった。尼子も自分との昔の蟠りによって、FA移籍を目指すかもしれない。無論、可能な限り補強はするが、いつも通りのオフを過ごしていたら、今年以上のチームになるかと言えば、微妙なところだ。
「……今、キャッツに必要なのはプロのコーチ。数人連れてくるかもしれんが、それを受け入れてくれるというのなら、引き受けましょう」
吞めなければ、この話はここでお終いだと告げる越智さんに、もちろん承諾する意向を告げる。すると、彼はグラスを掲げて言った。
「来年のキャッツの連覇に」
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