4/11(月)親会社では

4月11日(月)18時——。梅神電鉄本社会長室


「……と熱く語った、鳴尾浜・辛井新監督代行でした。さあ、巻き返しなるか。猛猫軍団の今後に期待です。……では、次はウクライナ情勢……」


プチン


「……オーナー。本当に、彼で良かったのですか?」


リモコンでテレビを消した電鉄社長の羽瀬が呟いた。


「仕方ないだろう?本命に思っていた越智さんに断られたんだから」


電鉄会長にして球団オーナーである藤田はため息をついた。


「しかし、いくらなんでも、辛井さんは……。兄の方ならともかく……」


「わかっている。だが、今年は誰がやっても一緒だ。ワシはもう諦めてるんだよ」


「オーナー……。それはいくらなんでも……」


藤田のあまりものいいように、羽瀬は絶句した。しかし、藤田は言い放った。


「取り繕ってどうする。コロナによる減収に球場のLED化。しかも、去年5厘差の2位なんぞになるもんだから、人件費まで上がって……。無い袖は振れん!ただそれだけのことだ」


プルルル……


「はい、会長室。え……角田会長が?ちょっとお待ちください」


角田会長……親会社である急都電鉄の会長である。藤田はあわてて百瀬から受話器を受け取り、繋げるように指示を下した。


「はい、藤田ですが……」


『ニュース見ましたよ。思い切ったことをされましたね。辛井くんですか。ギョッズに取られる前に押さえるとは、やりますね』


ギョッズ?どうして、その単語が出るのか藤田は首を傾げる。そして、思い当たる。


「会長……兄の方ではなくて、弟の方なのです。監督代行になるのは……」


『なにっ!?弟の方だと!!会長、気は確かですか?彼はたまにホームラン打った時にバットを豪快に投げ捨てる以外、取り柄がない男ではないですか。それで、勝てるのですか?』


「いえ……勝負は来年と思っておりまして……。それなら、誰がやっても同じかと……」


『馬鹿者!!』


「うっ!!」


藤田はその迫力に、受話器を耳から話した。


『もう17年も優勝していないんだぞ!!ただでさえ、関西財界で肩身が狭いというのに、まだワシに恥をかかせる気か!!』


昨年太平洋リーグを制したオリエントは、急都が手放した球団だった。そこのオーナーに散々どや顔されたという話を藤田は思い出した。


『とにかく、株主総会もあるんだから、今からでも補強をしなさい。メジャーをクビになった秋本や有川、金がないなら提供するから!!』


「ぜ……善処します……」


そんな金貰ったら、球団どころかこの電鉄の経営権まで奪われてしまう。藤田は青ざめるのだった。

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