閉じ込められた歌姫と王子になれない青年
発芽
1 始まりは噂話から
――ねぇ、あなたはもう知ってるかしら。孤児院に住むなんの身分もない少女と、ある貴族のご子息さまとの素敵なお話を。
お嬢様を亡くされたそのお屋敷は、家族にとって、それはもう深い悲しみに包まれた。ご子息である兄は、再び屋敷に明るさを取り戻したいと願い、同じ年頃の少女を探しはじめた。
周りを明るくする笑顔と、花びらが舞うような愛らしいあの歌声。幸せそうに歌うその笑顔で、聴いている人の心をも幸せにする。
あの歌声を、もう一度取り戻したい。
北へ、南へ。探して探して、探して――。ご子息様の目に止まったのが、まさにこの街。広場で歌っていた身寄りのない少女だった。
彼は孤児院へ通い、やがて少女を屋敷に連れて帰った。
でもね、屋敷の状況はお嬢様が亡くなられた直後よりも悪化してしまった。そもそも、ご子息様がお一人で勝手に連れて来たのだから。庶民でも最下層の暮らしをする少女。ご主人様と奥様が快く思わないのも当然だった。しかも生前も妹をとても大切にしていたご子息様は、連れて来た少女を同じように接し大切にするならなおさら。
いずれご子息様は別の令嬢といつか一緒になるというのに、これではいい縁談も寄り付かない。ご主人様は少女を部屋に閉じ込め、ご子息様のことはしばらく留学という体で屋敷から出し、二人を離れさせた。
その別れる前夜、ご子息様は少女に“必ず、戻るから。それまで待っていてくれ”と交わしたそうよ。いつかまた会えるその日まで、手紙のやり取りをして……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます