二 花閉じて

 一年中、何かしらの白い花が咲いているから。

 そんな理由で、俺の家は普通の一軒家なのに『白花屋敷しらはなやしき』と呼ばれている。

 あの咲き誇る花々は母の趣味で、俺はむしろ嫌いだった。

 ただ、気に入った花が一つだけある。夏の初めに日陰で一斉に咲く、周りには雑草だと思われている花。

 確か、あの花の名前は──


「アキラー」


 部屋の中でぼんやりと窓の外を眺めていると、ドア越しに双子の姉、あるいは妹であるカスミが話しかけてきた。

 周りに馴染めずに、自分の部屋に引きこもった俺とは違い、カスミは学校で楽しく過ごしているらしい。

 俺とは違う、親にも教師にも期待された優等生だ。


 その優等生は今日も部屋の前で、クラスメイトから仕入れた町の噂を話し始めた。

 噂に曰く、もう一人の自分が勝手に町を歩き回っていて、うっかり面と向かえば、殺されて入れ替わる──そんな、ありきたりなドッペルゲンガーの話だ。


「でもさあ、わたし達の場合、ちょっと分かりにくくない?」


「なんで」


「だってほら、わたしとアキラって瓜二つな双子でしょ? だから、もしもアキラが一人で外を歩いてたら、わたしのドッペルゲンガーだって皆思うかも」


「そうかもな」


 おざなりに返事をする。どうでもいい事に頭を使いたくない。

 この部屋から一歩も出ない俺に、ありえない例え話をしてどうするんだ、お前は。

 いつも通りにそう言うと、カスミはくすりと笑った。きっとその顔は、俺と似ても似つかない。


 当たり障りのない話が続いて、カスミの声が遠ざかる。

 煩わしい時間がようやく終わって、俺はふうと息を吐いた。


「ドッペルゲンガー、ねえ」


 もう一人の自分。成り代わりの怪異。

 怪談にはありがちな話だが、そんな物を広めて、いったい何が楽しいのやら。

 この時はまだ、その程度にしか思っていなかった。

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