馬酔木と十薬

独一焔

一 花咲かず

 一年中、何かしらの白い花が咲いているから。

 そんな理由で、わたしの家は普通の一軒家なのに『白花屋敷しらはなやしき』と呼ばれている。

 あの咲き誇る花々はただのお母さんの趣味で、わたしはどうでも良かった。

 ただ、お気に入りの花が一つだけある。春の初めに木の上で咲く、小さくて鈴なりになっている花。

 確か、あの花の名前は──


「カスミ」


 庭でその花を見ていると、双子の弟であるアキラが話しかけてきた。

 数年前からつい最近まで引きこもりだったくせに、伸び放題の髪を切って、服まで買っちゃって。

 近頃はまた学校に行くと言い出して、お母さんとお父さんを喜ばせていたっけ。


「また、馬酔木アセビを見ていたのか?」


「うん。だって可愛いじゃん。この……こう、キュッとなってる下辺りとか」


 花の形をジェスチャーで表現すると、アキラはくすりと笑った。

 その笑顔は、鏡の前の私にそっくりだ。


「カスミは変わらないな。俺、今日も出かけるから」


「また洋服買うの?」


「いや、今日は靴。しばらく履かなかったから、どれもボロボロでさ。春休みの内に買い直さないと」


「へえ、そうなんだ」


 おざなりに返事をする。春風に揺れる花。さわさわと花同士が擦れる音に乗せて、私はアキラに問いかけた。


「ねえ、アキラ。アキラの好きな花って、どれだっけ?」


「……? どうしたんだよ、いきなり」


「いいから」


「……決まってるだろ。俺の好きな花は──」



 ああ、嘘つき。

 キミは、アキラじゃない。

 いつ入れ替わったか知らないけど、アキラはそんな事言わないんだ。



 そう言うと、キミは悲しそうな顔をして、


「そうだよ、もうアキラはいない。キミの代わりになったからね」


 だから良いじゃないか、と言いたげにキミは去る。

 待って、と呼び止める暇もなかった。


 きっと、わたしにはその資格すらない。

 双子の片割れが消えた時すら分からない、わたしには──

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