第4話 輪栽式農法・落とし穴・岩の道具加工

 249日目~268日目。

 新たに開墾した土地をつかって、輪栽式農法の研究を始める。

 これは王都の近くで行われている近代的な農法であり、有名なものとしては小麦→カブ→大麦→クローバーの四圃式が挙げられる。

 内容を要約すれば、カブとクローバーを栽培し、これらを餌として活用することで家畜の飼育数を増やしつつ、家畜の糞を肥料にして穀物生産も増産させる、というものだ。加えて、輪作の効果によって連作障害を防ぎ、さらにはマメ科植物の窒素固定により土壌を改良できる、といった利点もある。


(スライムに土地の表面を食べてもらえるのはとても大きいな。土地を耕す労力を、ほとんど考えなくていい)


 土地を鍬や鋤で耕すのには意味がある。

 耕すという行為は、土壌を膨軟化させつつ作物の地下部分の生育を助け、また生育しかけた雑草を埋め殺すという役目をもつ。

 そして、カブのような根菜類は利用部分が地下に存在し、地下部分を生育させなければならないという特性がある。草丈も低いため、雑草に対しても弱い。

 だからこそ、根菜を植える際はわざわざ手間をかけて土を掘り起こすのだ。


 だがこの労力は、ほとんど無視できる。

 なぜならスライムが土地の表面をもそもそと食べることができるから。


(好き放題にやらせてもらっているけど、村の人は誰も俺を止めないな。まあ、村の人の農業を邪魔しているわけじゃないし、今のところは放置してるんだろうな)


 果たして結果が出るのは何年後になるだろうか。

 カブもクローバーもこの辺に自生しているわけではないので、最初の一年は苗や種子の取り寄せからスタートとなる。

 それに、カブやクローバーが風土や気候にあうかどうかも確かめなくてはならない。クローバーに関してはあまり心配していないが、カブは結構デリケートな野菜である。


 新たな土地を耕しつつも、合間を縫ってせっせと集めた岩と巨木が、それこそ山のように積みあがってきた今日この頃。

 俺の頭の中にあった領地改革が、徐々に形になりつつある。

 だがまだまだ俺は、内政で突っ走ってやると心に決めていた。




 269日目~281日目。

 森の道中に落とし穴をぼこぼこと掘りまくる。イノシシなどの害獣が村に襲い掛からないようにするための工夫である。これでもし獲物が引っかかってくれたら儲けものだ。


 そう考えて、クソバカが穴を掘りましたってぐらいに大量に落とし穴を作って、村の猟師に罠の位置を伝えると、半分呆れられつつも半分感謝された。


(そりゃそうか。害獣よけとはいえ、魔物の通る道が変わってしまったら猟師としても困るものな……)


 次は事前に猟師に話を通しておこう、と当たり前のことに気付き苦笑いする。だがまあ、魔物がわんさかいるこの地においては、こういった罠はあればあるだけいいだろう。

 事実、罠を仕掛け始めて早々、何匹かの間抜けな魔物は罠に引っかかり始めていた。

 村を襲う害獣駆除もできて肉にもありつける。これで村の食糧状況はちょっと改善するであろう。




 282日目〜358日目。

 うなるほど調達できた巨岩をたくさん使って、村の古い設備や道具を一新する。

 半ば腐ってそうな木の床は、石畳に。

 粘土で作られたぼろぼろの机や椅子は、石の机と椅子に。

 小麦を挽くための石臼や、洗濯に使う平らでつやつやした丸石、建物の柱――とにかく何でもぼろぼろのものは石に置き換えた。


 ここにきて、村人からの感謝はうなぎのぼりになった。

 最初の方こそよそ者がきた、という程度にしか扱われていなかったが、みんなの日用品やらを新しく刷新すると、手のひらを返したように感激してくれた。


『なるほど、流石は領主様ですな。今後もぜひそのお力を我が村にお役立てくだされ』


 と、村長からはちょっと腹の立つ褒められ方をしたが、まあよしとする。

 スライムを成長させるついでの行動なので、そこまで頓着はない。

 俺の方が偉いんだぞ、なんて業突く張ったところで、得をするわけもなし。


(そんなことはまあいい。どうせ俺はスライムを育てたかっただけなんだし、内政は趣味だし)


 うちのスライムの何が凄いかというと、石の表面を好きに加工できるところだ。

 石の表面を研磨するのは、とても労力がかかる。石臼にある溝の加工だって簡単ではない。だがうちのスライムは、とても器用に細工を施すことができた。滑らかにするのも溝を作るのもお手の物だった。


(食べさせれば食べさせるだけ、どんどん器用になっていくな、こいつ)


 成長している。以前よりもますます、魂の結びつきが強化されていくのを感じる。

 使役獣が成長すれば、使役する者も成長する。魂の結びつきを通じて魔力が増大するからだ。

 とはいっても、もう俺はこのスライム以外の魔物を召喚することも使役することもできないのだが――より強くなることに越したことはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る