追放されたスライム召喚士が領地開拓をやり込んだら、一国の統治者に成り上がった件:
RichardRoe@書籍化&企画進行中
プロローグ スライムˈʌndiːn との契約
第1話 プロローグ①(ゴミ溜め清掃・井戸の浄化・下水道の清掃)
1日目。
――スライムを召喚した。
今使えるすべての魂魄石と契約石を費やして、さらには俺自身の魂魄――“魂の器”にも、余すところなく魔獣契約紋(ˈʌndiːn)を刻み込んだ。要するに魂の大部分を生贄に捧げたわけである。これでもう二度と魔物は召喚できないだろう。
召喚の儀式とて、容易く終わったわけではない。召喚の指輪を三つ、使役の指輪を七つはめて、精緻な高等術式を構築して、ようやくこのスライムˈʌndiːnを支配できた。
このスライムは、いわゆる高位の階梯の魔物となる。
「……これが、俺の相棒か」
見るも小さい水の塊を前に、俺は小さく呟いた。
この俺、アシュレイ・ユグは召喚士である。それもスライムしか召喚できない、半人前の召喚士。
魔術の修練が足りない未熟者だからスライムしか召喚できないのだ、とも言われたことがある。生まれつき背中に【水棲魔の口付け】と呼ばれる謎のあざがあるのだが、これが原因だとも言われたことがある。
本当のところはよくわからない。なぜスライムしか召喚できなかったのか、ついぞ理由は判明しなかった。
今わかっていることは、この召喚で、俺は魔術の才能のほとんど全てを食いつぶし、魂の器の殆どを契約に費やしたということ。
(……ここまでしても、俺はスライムしか召喚できないのか)
召喚したスライムを箱に入れて、木くずをたっぷり上からふりかける。餌代わりだ。スライムが雑食であることは長年の経験で実証済みだ。
木くずを一ヶ月分は突っ込んでおいたので、しばらくの間は何もしなくてもよいだろう。
それにしても、魔術師人生を捨ててまでして、手を尽くして召喚できたのがただのスライムというのがちょっと悲しい。
だが腐っても高位階梯。大事に育てていれば、いつか思いもよらぬ良いことがあるかもしれない。
そう信じて俺は、このスライムを相棒にすることに決めたのだった。
2日目。
スライムに与えていた木くずが全てなくなっていた。恐ろしいほどの消化速度だった。
ひと月は持つ計算だったのに、こうもぺろりと平らげられるとは思ってもいなかった。
仕方がないので、路地裏に勝手に投棄されているゴミを食べさせることにした。
俺が酒場で食事をしたり、防具屋で採寸したり、道具を買い揃えている間、スライムには勝手に路地裏のゴミを食べておくように命じておいた。
3日目。
スライムは本当によく食べた。
俺の住んでいる宿屋の近くといえば、悪臭おびただしいことで有名な不法投棄場(※この時代、上級市民の住む区画以外にはゴミ捨て場は敷設されておらず、貧民の住む区画では、勝手に大きな穴を掘ってそこにゴミを捨てる“ゴミ溜め”が散見された。放置しておくと害虫や疫病の発生源になるので、定期的にゴミを広場に運び出して、火を付けて野焼きを行っていた。だが貧民区画なので、しばしば放置されることも珍しくなかった)があることで有名なのだが、それがいつの間にか、みるみるゴミの嵩が減ったのだという。
願ったり叶ったりである。
これで、いつも宿に泊まっているときに漂ってくる悪臭も、少しは緩和されるだろう。こちらとしては餌やりのついでの気持ちなので、一挙両得である。
せっかくなので、スライムにはゴミ溜めのゴミをきれいさっぱり平らげておくことを命じておいた。
宿屋の主人にも、とても感謝された。
悪臭が原因で客足が遠のいていたところを、これで商売が繁盛するだろうとお礼までされた。銀貨一枚。嬉しい臨時収入である。
4日目。
スライムが貧民らによってたかって虐められていた。
どうやら、ゴミ溜めの中で発見した貴金属を、貧民たちが横から奪おうとしたらしい。
謎の指輪、きれいな首飾り、小洒落た細工の短剣、などなど。いつの間にかゴミの中に紛れ込んでいたらしい。
鑑識眼のない俺でも、値打ちものだということはよくわかった。彼らには悪いが、「使役獣のスライムが見つけたのだから、これは俺のものだ。どうしても横取りしようと言うのなら考えがある」と脅して、俺が預かることにした。
5日目。
信じられないことに、宿に火をつけられた。
例の貧民たちである。とんでもない連中だ。宿屋の主人も激怒していた。
本来ならば憲兵沙汰の出来事だが、周囲への延焼がなく、宿屋自体も全壊とはならなかったので、憲兵は動いてくれないだろう。
つまり泣き寝入りだ。
「悪いがあんた、出ていってくれんか。あんたが悪いわけじゃないだろうが、同じようなことが続いたらこっちもかなわん」
いい返す言葉もない。こっちだって巻き込まれ事故のようなものだが、諍いの火種を招いたのは事実である。
宿屋の主人には、幾ばくかの見舞金を包んで渡しておいて、俺は他の宿を探すことにした。
6日目〜12日目。
同じようなゴミ溜めを見つけては、スライムにもっそもっそと漁らせる。
流石に貴重品が毎回手に入るわけではないが、銅貨や大銅貨であれば結構落ちているものだし、銀貨もたまに見つかる。銀貨が一枚あればその日一日は凌げる。
別にこんなことしなくても、当面の資金はそれなりにあるので生活はできるのだが、なんとなく趣味でやっている。スライムにたくさん食べさせるのは見ていて楽しい。
(いかに王都といえども、中央区から遠く離れた地区はひどい有様だな。おかげでゴミに困ることはない)
歩きながらぼんやり考える。
この地、王都ハービツブルクは、三つの地区に分割される。それぞれ、貴族区、中央区、外延区、となっている。
とはいっても、そもそも法令上、正式な王都として扱われているのは中央区までであり、外延区は言うなれば「勝手に王都の周辺に住んでいる不法滞在民たちの場所」という扱いである。
なので、憲兵の見回りは殆どないし、下水の整備もされていない。
大雨が降ったときなんか、下水が街中溢れかえって悲惨なことになる。
そんなものだから、外延区を適当に回れば、ゴミ溜めなんて簡単に見つけられる。
「……しばらくはスライムにゴミの清掃をしてもらうか」
たまに金目の物が見つかるし、周囲の飲食店や宿屋からは感謝されるし、いいことづくめである。
そんなわけで、俺は新たな宿を点々と回って、ゴミ溜めの掃除を行うことにした。
13日目〜16日目。
このあたりに入って、少々変化が起きた。家畜に与える餌が足りなくなる、ということでゴミ溜めの清掃を断られ始めたのだ。
ゴミ掃除を断るなんて珍しいことである。だが、相手の意見にも一理あった。
この時代、貧民たちは豚などの家畜を飼っていた。豚は雑食なので、生ゴミや人糞を処分させるのにうってつけだったのである。特に王都外れにすむ外延区の人々は、穀物・野菜中心の食生活であったために、未消化の糞便は豚の餌にしやすかった。
「とはいっても、スライムにも餌を食べさせてあげたいんだけどなあ」
仕方がないので、水が汚染されて誰も飲めなくなってしまった井戸に、スライムをひょいと放り込む。汚染部位を餌代わりに食べてもらおう、という魂胆である。
井戸の汚染の原因は不明である。だが十中八九、ゴミ溜めに雨が降って、地下水に染み渡って、井戸水を汚してしまったのだろうと予想された。
魚の死骸が浮かび、謎の黄ばみや謎の赤い固まりが水面に蔓延っている井戸は、誰がどう見ても飲用に適しない様相だった。
(うへえ、とんでもない臭いだ。ここに火魔術を放ったら、爆発しそうだな……)
こんな逸話がある。
腐りきった井戸の悪臭に耐えかねた魔術師が、井戸を焼いてしまおうと火魔術を使ったところ、爆発を起こしてしまい失明してしまったのだという。原因は可燃性の気体。「炭鉱で異臭が漂ったら火を使うな」とはよく言われるが、放置されて腐りきった井戸でもそんな似たようなことが稀にあるらしい。
しばらくスライムに井戸掃除をさせつつ、俺は日が暮れるまで魔術書を読んで勉強を行った。日が沈む頃には、井戸の臭いも随分とましになっており、水に浮かんでいる謎の赤い固まりなどもすっかり消え去っていた。
流石に今すぐ飲む勇気はなかったが、しばらく経てば飲用できる日がくる……かもしれない。
17日目。
ゴミ溜めのゴミ処分に加えて、井戸掃除もして回っていると、俺はちょっとした有名人になりつつあった。
王都の
あんまり嬉しい渾名ではない。だが有名になったおかげか、俺個人宛にちょくちょく依頼が舞い込むこともあった。
「えっと……今回は、中央区の用水路の依頼が一件と、ゴミ捨て場のゴミ処分の依頼が一件か」
関所に入関税を支払って中央区に入る。中央区からが、いわゆる本当の“王都”だ。
流石に中央区ともなってくると、用水路が比較的きれいに整備されている。大掛かりな下水道が作られているおかげか、都市部の川の水は比較的きれいである。
(やっぱり外延区と比べると、中央区は段違いに綺麗だよなあ)
王都の川がきれいな理由は簡単である。地下に作った下水道を通じて、工業排水や生活排水などを都市部よりも下流に流すようにすることで、川の清潔さを保っているのだ。
だが、いくら清潔さを保っているとはいえ、川の入口で馬が溺れて死んだりすると、その死体が腐って水質汚染を起こし、街中が迷惑を被ることになる。
今回の俺の仕事は、そういった王都の川を汚す迷惑な死体を掃除することである。
(なるほど、クサレカズラ草を載せた馬だから、誰も助けてくれなかったんだろうな……)
なぜ馬が溺れ死んだのかというと、ちょうど川の狭さがぴったりで、馬が転けたときに嵌まってしまったかららしい。
馬を引き上げようにも、馬一頭を川から持ち上げるのは並大抵のことではない。
しかもクサレカズラ草といえば、悪臭のひどい草で有名である。干せば漢方薬にも化粧品にもなって有用なのだが、あたり一面嫌な匂いをこうも巻き散らかされては、近寄りたくなくなって当然というものだ。
俺としては、報酬金が出て、なおかつスライムに餌を与えられるのであれば何でもいい。
スライムを投げて、そのまま放置していれば、勝手に金になるのだから、何とも都合のいい儲け話である。
結局、その日も俺はただスライムを放り投げて、本を読んでいるだけで仕事が終わった。
18日目〜26日目。
激動の一週間だった。仕事が山程舞い込んできたのだ。
煙突の煤掃除を引き受けた。
公衆浴場の清掃を引き受けた。
井戸という井戸を綺麗にしてまわった。
精肉屋、皮なめし職人、大衆食堂、などなど、様々な職業の人たちからゴミというゴミを引き受けた。
おかげで、懐がかなり潤った。
こちらとしては、ただスライムに餌を与えているだけである。
だがこれが金になるのだ。
極めつけは王家からの仕事。なんと国王陛下から直々に勅命が下ったのだ。
内容は下水道の清掃。
王都の地下に潜って、下水道を一度さっぱりきれいにしてほしい、とのこと。
もはや公共事業である。内政庁と財務庁の肝入り案件とあらば、成功させないわけには行かない。
(でも、変な魔物とか棲み着いてそうだしなあ……)
とりあえず、清掃範囲がとても広く、かつ危険が伴うことを熱心に語り、清掃には少なくとも二ヶ月以上時間がかかるだろうと説明して承諾いただいたので、ゆっくり考えることにする。
27日目〜33日目。
下水道を安全に清掃できないか色々試したが、失敗が続いた。
猟犬を借り受けて、変な魔物がいないか先導してもらう――あまりの匂いと下水道の暗さを犬が嫌がって、全然下水道に入ってくれなかった。
閃光符を使って、一気に明るさで中の生き物を驚かせる――いちど実施したところ、恐慌状態に陥ったコウモリが一気に襲いかかってきて痛い目にあった。
いっそのこと火魔術で下水道を焼き払う――爆発を起こして、下水道が崩壊する恐れがあるとして却下された。
(……もういっそスライムに全部任せてしまうか?)
とりあえず現段階でわかっていることとしては、カエルの魔物、カタツムリの魔物、ネズミの魔物、ザリガニの魔物、コウモリの魔物、あたりである。
そして、自分の召喚したスライムであれば、意外と何とかなるのではないかと考えていた。
スライムには核がある。
核そのものが傷付かない限りは、スライムは絶命しない。
(カエルやカタツムリの毒はスライムには効かない。天井を這えば、ネズミやザリガニには襲われない。後はコウモリさえ気をつければ大丈夫なはず)
コウモリの魔物。
怪音波を操り、恐ろしい顎力で齧り付いて骨まで砕く。
そして肉を噛みちぎり、血をすする。
一般人にとっては恐ろしい魔物だが、スライム相手だとさほどでもない。
コウモリの牙は短く、スライムの中心の核まで届かない。怪音波もスライムには効かない。端的に言えば相性がいいのだ。
(……面倒だしスライムに任せるか)
これはあくまで主観なのだが、どうにもこのスライム、食べれば食べるだけ成長しているような気配がある。
しばらくこの子の自由に任せてみて、清掃を進めるだけ進めてもらい、どうしても無理なところに差し掛かるまで待つ、というのは
34日目〜38日目。
たかがスライム一匹。
みるみる下水道が綺麗になった、とはならないものである。
されどスライム一匹。
指輪の魔力を経由して、スライムの成長を感じる。何となく、本当に何となくだが、スライムとの魂の結びつきがより強固になっていくのを感じるのだ。
(……全然地上に帰ってこないな。別に無事ならそれでいいけど)
39日目〜44日目。
なんと、困ったことに全然スライムが地上に戻ってくる気配がなかった。
おかげで下水道の清掃が順調なのかどうなのかさえわからない。
下水道の清掃が順調だったとて、そもそも流れる下水がきれいになるわけではない。
毎日何かしらの生活排水が下水道にひっきりなしに流れてくるのだ。
なので、外から見て本当に下水道の清掃が進んでいるかどうかは、何もわからない。
進捗は神のみぞ知るわけで。
ここまで結果が出ないと、王家の役人からの目線も若干冷たくなってくる。もしや私たちは詐欺師に騙されたのではないか、と、そんな疑心暗鬼の感情がそれとなく伝わってくる。
(……そろそろ戻ってきてもらおうかな、どうしよう、流石に中間報告とか必要だもんな)
45日目〜51日目。
帰ってこない。ますます心細くなる。
多分、帰還を命じればスライムは帰ってきてくれるだろう。だがそのときに何の証拠もなければ、俺はどうすればいいのだろうか。
(スライムには一つだけ、ちょっとしたお願いをしている。うまく行けばそれが王家のご機嫌取りになるはず……)
52日目。
俺が耐えれなくなったので、指輪に命じてスライムに帰ってきてもらった。
およそ20日間弱、スライムはたった一人で下水道の清掃を頑張っていたことになる。
結果が楽しみですな、と内務官の一人に釘を差される。なかなか怖い。
頼むから何かしら戦果を持ち帰ってきてくれよ、と祈るような気持ちで下水道への入り口を眺める。
しばらくして、小さなスライムがもそもそとやってきた。
(……あ)
内務官たちはスライムを見て、きょとんとしていた。
一方俺は、スライムを見て思わず内心で快哉を叫んでいた。
スライムは、下水道から無事に、綺羅びやかな装飾品の数々を持ち帰っていたのである。
53日目。
ゴミ溜めから金目の物を見つけたときから、ちょっとした予感があった。
きっと下水道にも金目の物が落ちているに違いない、と。
酔っ払った貴族が、誤って懐から装飾品を落としたり。
何者かに暗殺された貴族が、証拠隠滅のために下水道に遺棄されて、そのとき身につけているものが下水道に残っていたり。
貴族同士の嫉妬や諍いで、相手の首飾りや耳飾りをこっそり下水道に捨てたり。
とにかく、そんなこんなで金目の物がたくさん出てくるだろうと読んでいた。
そして、今回下水道からそういった品物をたくさん拾ってこれたら“勝ち”だと考えていた。
(これらの品の中には、貴族の身分を証明する品物がたまに紛れている。家紋の刻まれたタリスマンや、ドワーフの名工が手掛けた宝石の首飾りや、隕鉄で拵えた短剣。王家に献上すれば、相当の見返りが貰えるはず)
下水道がきれいになったかどうかは関係ない。
こういった希少価値の高い逸品を拾ってくれば、それはそれで功績を認められるはずなのだ。
そして、実際に勝利した。
(本当に幸運だった。これできっと俺は、数年は食うに困らない程度の謝礼金にあやかることができるはず……!)
54日目。
貴族として士爵に叙任された。
ついでに、辺境のよくわからない小さな土地を任されることになった。
どうしてこうなった。
――――――――――――――――――
■あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「追放されたスライム召喚士が領地開拓をやり込んだら、一国の統治者に成り上がった件」、投稿スタートです。
本作品は内政知識 & 領地改革 & 開拓 etc.をできる限りたくさん詰め込んでしまおう、という意欲で執筆しております。内政モノなのにサクサク進んで、領地経営ネタをこれでもかとばかりにモリモリ欲張りに詰め込んで、でも、そりゃないぜって笑えちゃうような軽い読み味の作品にしたいと思っています。
乞うご期待!
面白いと感じましたら、小説フォロー・★評価をポチッとしていただけたら幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。
2022/04/26:誤字修正(ご指摘ありがとうございました!)
2022/05/08:誤字修正(ご指摘ありがとうございました!)
(以下は、無視してもらってよい文章です)
Description and common attributes:
Undines are almost invariably depicted as being female, which is consistent with the ancient Greek idea that water is a female element.[7] They are usually found in forest pools and waterfalls,[8] and their beautiful singing voices[9] are sometimes heard over the sound of water. The group contains many species, including nereides, limnads, naiades, mermaids and potamides.[7]
What undines lack, compared to humans, is a soul. Marriage with a human shortens their lives on Earth, but earns them an immortal human soul.[10]
The offspring of a union between an undine and a man are humans with a soul, but also with some kind of aquatic characteristic, called a watermark. Moses Binswanger, the protagonist in Hansjörg Schneider's Das Wasserzeichen (1997), has a cleft in his throat, for instance, which must be periodically submerged in water to prevent it from becoming painful.[11]
https://en.wikipedia.org/wiki/Undine
より抜粋
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