モウイチド
「────い……おーい!!」
「……?」
「お、やっと反応したか!」
「……は?」
「いや〜ぼーとしてたもんでな、ちょっと声をかけてみただけだ!」
「あ、もしかしてあれか? メーソーってやつか!!」と大きい声で言ってくる男、俺と同じ制服をきたがたいの大きい生徒が俺の前に立っていた。
「な、なんだ……ここ……」
「ん? ここは教室だぞ?」
──そんなばかな……!?
状況がまったく読み込めず、周囲を見渡してみると、左側には大きな窓、右側には白い壁があった。
視線を手元に戻すと、手元には何度も読んだライトノベルが机の上に置かれている
再び顔を上げて後ろをみると、俺に目線を向ける
「あれ……俺は今まで、いったい何を……」
今の今まで自分が何をしていたのか全く思い出せない。
そもそも俺はこのクラスごと異世界に召喚されたはずだったのだ。
それなのにも関わらず、なぜか俺はこうして現実世界にいる。
「そうだ異世界……!」
そうだ、思い出した。
俺は異世界に召喚されてすぐ、己の能力値を確認しようと水晶球に手を置く直前に謎の魔女に連れ去られ、いくらかほうきで飛んだかと思ったら路地裏に降ろされ、お互いに名前を確認する間もなくそこで別かれて……。
別れたその瞬間。彼女が──橙色の髪の魔女が俺に背を向けた瞬間、横から襲い掛かってきた男によって殺され、俺もなすすべなく殺されてしまったのだ。
そう思い出した瞬間、慌てて俺は身体全体を触って、どこも損傷が無いかを確認。
幸いと言うべきか、俺の眉間を切り裂いた傷は無く、魔女の血が手や衣服についることは無かった。
「……それじゃあ、さっきまでのは夢だったのか……?」
──異世界に召喚されたことも、あの魔女さんと会い、あの悲劇が起きたということも……。
「な、なんだ!?」
「……!?」
次の瞬間本や机の縁どりが金色になる。
「なにこれ!!??」「金色に光ってる……!!??」と、突然金色になったことでクラス内が混乱に陥る中、俺だけは別の意味で驚き、安堵していた。
──夢じゃない……! あれは、あの異世界召喚は夢じゃなかったんだ……!!
たがしかし、夢ではなかったとすると殺されたらはずの俺がなぜ過去に戻ったのかか説明できない。
……いや、説明できる事が1つある。
死に戻り。
それはその名の通り死を持って発動する。
この力を使えばもし死んでもまたやり直せるため、絶対に勝利を掴むことができ、なんならどれだけ理不尽な状況でも全員生還してハッピーエンドを迎えることができるのだ。
しかし、その代償も大きい。
死に戻りは死ぬことによって発動する、つまり死ななければ発動しないため、死に戻りをするたびに途轍もない激痛や苦しさを感じることとなる。
そして、死に戻りは過去に戻ることができても、いつの時間に戻るのか──セーブポイントを自分で設定できない。
そのため、セーブポイントによっては生き返っては死に、生き返っては死ぬという絶望できなループにはまってしまう可能性があるのだ。
「……死に戻りだけは嫌だ」
次の瞬間、縁取っていた金色の光が増大し、視界全体を飲み込んだ。
──────────
そういえば、死に戻りを否定する方法があった。
死に戻りは過去に戻ることができるが、過去に戻るということは何か自分が変わった行動を起こさない限り、過去は変わらず前回と同じ出来事が同じように起こるという事である。
そして、それこそが死に戻りが絶対に勝利を掴むことができる所以である。
何度も何度も文字を書ければ覚えられるように、何度も何度も同じ攻撃、行動を受けていれば最初は死んでも、次、またその次は相手の行動を先読みできているため避けるなり攻撃するなりができる。
それに、たとえ失敗したとしても一回死ねばまた最初からやり直せる。
その反省を踏まえたうえでまた自分が相手の行動を先読み、そして攻撃などができるから。
だが逆に。死に戻る前と死に戻った後で出来事が違えば、それは死に戻りではなく似た別世界へと移った、という風にとらえられるのだ。
どうか!どうか新しい出来事が起こってくれ!!
と、目を開けて覚醒する。
どうやら召喚された場所は前回と変わっていないらしく、白で統一された壁やシャンデリアがつるされている。
すると、突然の出来事でクラスメイトは混乱し、ざわざわと騒がしくなると、「皆の者! 静まれ!!」と大人の声が聞こえた。
「おぉおぉ! 召喚は見事成功でおじゃるなあ!」
振り返るといかにも貴族のオッサン感丸出しの中年男が、豪華な椅子に座り、こちらを見渡している。
…………。
どう見ても既視感しかない貴族のオッサンが、何度聞いても既に聞いたことがある言葉を発した。
…………。
「いやまだ……まだそうと決まったわけじゃない」
それこそ、今のセリフはよく異世界クラス召喚系でよくある、テンプレなセリフじゃないか。
だからまだそう焦る時間じゃない。
ここはとりあえず落ち着いて、事の成り行きを見守ることにする。
「だ、誰だアンタは!! こ、ここどこだよ!!」
「そ、そうよ!! いきなり変な所に連れ出して犯罪よ!!」
「召喚主様ありがとうございますぅ」
批判2、肯定1という構図も、おっさんの隣にいる衛士が剣を抜くとみんな押し黙るのも、前回と全く一緒だ。
「みな困惑するのも無理もないでおじゃろう。何も知らない状況でおじゃろうし、どれ、ひとまず己の力量を測るおじゃる」
「り、力量って……?」
「な、何を……?」
「オフフフ……異世界チートキタコレ」
…………。
今のところ前と1字1句違いがないんだけれど……。
加えて、誰も行こうとしない感じ、このままだと教室でやたらと大きい声で話しかけてきた男を初めに測っていき、結局俺の番は最後となるであろう。
そして俺が測ろうとした直後、上から橙色の髪の魔女さんが俺を連れて行き、路地裏に降りたところで2人諸共殺される──もし、死に戻りが本当であるならば、だが。
とりあえずこのまま何もしなければ、魔女さんが現れ俺を連れ去るのだろう。
もしそうなった時は絶対にあの路地裏には降りず、別の場所に連れて行ってもらおう。
「お、俺が──」
ガシャーン!!!!
突然部屋のガラスが破壊され、破片が周囲に飛び散った。
クラスメイトは突然の出来事に驚いているらしく、女子は悲鳴をあげ、男子の中には腰を抜かしているやつもいる。
──は!?ナニゴト!?!?
という俺自身も、てっきり死に戻りしていて同じ時間をループしているものかと思っていた矢先、違う出来事が起きたため、腰を抜かすまではしないが半歩後ずさった。
「お、おいあれ!!」
クラスメイトの誰かが声を上げ、部屋の高い天井の
その先、
そう、前に俺を連れ去った魔女がそこにいたのだ。
(仮)異世界に召喚されたはいいものの、ハズレスキルを引いた影響でマトモな異世界生活にはなりません。 清河ダイト @A-Mochi117
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