(仮)異世界に召喚されたはいいものの、ハズレスキルを引いた影響でマトモな異世界生活にはなりません。
清河ダイト
ハジマリ
「────学校……か……」
俺は数か月ぶりに校門の前に立ち、そこから歩みを進めることを躊躇っていた。
俺は
長々と校門の前に立っているわけにもいかず、意を決して歩みを進める。
教室につくとクラスメイトから驚きの声や、軽蔑の目線などが向けられる。それもまあ仕方ない事であろう。何か月も不登校のやつがいきなり学校に現れるとなれば注目が集まるのも無理はない。
足早に自分の席に──教卓にある席表を見て確認した──向かい着席する。バックから本を取り出して周りからの視線をシャットアウト、できるだけ目立たないように視線を動かさない。
すると席の前にやたらとガタイのいい男がやってくる。
「やあおはよう!!はじめましてだな!俺は羽場だ!羽場正樹!!
よろしくな!!!」
「…………」
無視で乗り切ろうとしたが、やたら落ち着きがないのかはたまた突っかからないと気が済まないのか、俺の本を勝手に覗いてくる。
……邪魔だ。ものすごく読みにくい。
おい人が本読んでるときは聖域だぞ? 邪魔するんじゃねぇ──という本音はどうにか堪える。
「……邪魔なんだけど」
少しでも威嚇になるように席を立ちあがって右手を出し、鋭い目で相手を睨む。
「ん?邪魔だったか!」
「それはすまんかったな!!」といってまた別のグループに突撃していく。
……陽キャの極みかよ。
──まったく……こんなんだから俺はいつまでたっても友達0人なんだろうな~。別に不便じゃないからいいけどさ。
気を取り直して俺はまた本の世界に入ろうとした。だが本の端が金色に輝いていることに気が付いた。いや、この本に限らずこの教室中の人を含めたすべての物質の縁取りが金色に輝いているではないか。
「なにこれ!!??」「うおー!!!視界が真っ金金になったぞ!!??」など、クラス内が混乱に陥り、それは俺も例外ではなく全く状態がつかめず、ただただ周囲をキョロキョロするしかない。
次の瞬間、その縁取っていた金色の光が増していき、教室は金色の光に包まれ周囲の喧騒も聞こえなくなる。
金色の光がだんだんと収まっていき、視界がだんだんと見えてきた。
いったいさっきの光は何だったのだろうか……? もしや核攻撃か!? いやいや……それにしては衝撃波も無ければ熱も感じないし、何より今視界には豪華な壁や天井、そしてシャンデリアさえも置いて──
「…………はぁあ!?!?!?!?」
辺りを見回すとクラスにいた人全員がこの場にいるようで、俺と同じく困惑して周囲をキョロキョロしている。
壁や天井は白塗りで統一され中央にぶら下げてあるシャンデリアの光を反射し、この部屋というか空間を隅々まで照らしている。床も白で統一され、中央には赤い絨毯が敷かれており、状況からして一応アニオタの端くれである俺は一つの結論に至った。
「異世界召喚、それもクラス丸々のクラス転移ってやつか……!?」
異世界召喚となれば召喚主がいるはずで、俺達召喚者はそいつの命令に絶対服従というやつなのだろうが、せめて召喚主は有能な奴であってほしい……。そんな想いを巡らせていると、後ろの方から「皆の者! 静まれ!!」と声が聞こえた。
「おぉおぉ! 召喚は見事成功でおじゃるなあ!」
振り返るといかにも貴族のオッサン感丸出しの中年男が、豪華な椅子に座り、こちらを見渡す。
いかにも無計画にいろいろ事を勝手に進めて最終的に自滅するようなキャラ格好で、絶対に命令に従いたく無いのだが、そんなことより俺は異世界に来ることが出来た喜びと感動から、表情こそ目を見開くだけだが内心「うおぉぉ!! すげすっげぇぇ!!」と大興奮していた。
「一体どこなんだここは!?」
「そ、そうよ!!いきなり変な所に連れ出して犯罪よ!!」
「召喚主様ありがとうございますぅ」
批判2、肯定1の三対一の状況で一瞬騒がしくなったが、貴族のオッサンの隣にいる衛士が剣を抜くと皆静まった。
「みな困惑するのも無理もないでおじゃろう。何も知らない状況でおじゃろうし、どれ、ひとまず己の力量を計ってはみないでおじゃるか?」
「……りきょう?」
「な!何を……?」
「オフフフ……異世界チートキタコレ」
……うむ、関係は無いが反応を聞いていると、このクラスにはどうやら相当なキモオタがいるようだな……。
スキルを計ってみろと言われたが、皆怖いのか周囲を見て判断しようとしている。
「……お、俺が行くぞ!!」
おー、悪そうなやつは意外と度胸があるようだ。
両手を握り緊張した様子の悪そうなやつは貴族のいる壇上に向かい、置かれていた水晶玉のような物に手をかざした。すると青色の光が虚空に文字を書きだした。
「……まあまあでおじゃるな」
ふと貴族のオッサンがそのように呟いた気がした。しかし他の皆は聞こえていなかったようで、それどころか我先にと己の力量……いや、ステータスを見に行った。
冒険者、魔法使い、回復役……などあるあるの職業はもちろん、レリックオーダやジークネクロマンなど聞きなれない職業も出てきた。それらを見るたびに「おおこれは使えそうでおじゃるなあ」と呟いているので、おそらく良い職業なのであろう。
かくして、必然的に一番目立たない俺が最後まで残り、謎の注目を集める中で俺は右手を水晶にかざそうとしたその時、いきなり天井が崩壊した。
「み、みんな逃げろー!?」
「きゃあ!?」
「何かが起こる予感……!?」
「うお……!?」
ガラガラガラ……!! と上から降ってくる瓦礫から頭を守るために、頭の上に手を置いて防御態勢に入る。
いったい何が起きたのかは分からないが、おそらく人間による攻撃であるだろうと予想できるため、とりあえず崩落が収まったらこの場から離れなければ──
「──暴れず掴まれ、カケル」
「へ?」
何者かに左手を掴まれ、即座に足が地面から離れて浮遊感に見舞われる。地上ではまだ天井の崩落で皆右往左往していてこちらには気づいていないようだ。
「まったく……掴まってと言ったのに……」
「いやいやいやいや……初対面の人に連れ去られてそれに掴まらないといけないておかしいだろ……」
「………………やっぱり、覚えていない」
ふとそう聞こえ「覚えてない……?」と顔をあげると、俺を誘拐? した犯人は助成、それも現実世界基準と比べても相当の美人、というか可愛らしく、異世界基準で見てもかなり美人で可愛いようだ。。
俺があまりの美しさに心うたれていると、「いや、なんでもない。独り言」と素っ気なく返し、顔を背ける。
髪色は鮮やかな橙色でロングヘア。服は黒を貴重としたロングコートに、白と青色のワンピースとスカート。肌は透き通るような肌色で、触れる左手からは温かみを持った熱が伝わってくる。そして魔女なのかほうきに腰掛け、頭には魔女らしい帽子をかぶっている。
「それより早く掴まれ。このままだと私の手が力尽きて、カケルは地面に激突する」
「は、はいッ!!」
咄嗟に下を見てみたがあまりの高さに絶句する。地上にいる人間が点でしか見えないので相当な高さだ。なのに今俺が置かれている状況は命綱はおろか、この魔女の腕力にかかっているし、その手も先ほどから小刻みに震えていてそろそろ限界が近づいているらしい。
「……あの、どこに掴まれば……?」
現在上空数百メートル。さらにスピードを出して飛んでいるため風も強く、ほうきに掴まろうにも手が届かない。もしや足に掴まれと!? い、いやいやいやいや……いくら何でもそれは無いだろう。まずまず初対面だし……というか俺の命とか狙ってるかもだし……。
そんなふうにおどおどしていると、魔法使いさんが「はぁ……」とため息をこぼす。
「もうめんどくさいからほうき乗って」
「わ、わかった……」
どうにか魔女の後ろに乗り込み、ほうきを跨ぐ形で乗る。
しかし、この人は一体何者なのだろうか? 突然連れ去られてここまで来たが、よくよく考えてみると俺かなり危ない状況では!?
もしこのまま連れていかれるとして、その場から逃げようにも空を移動しているし、下に広がる街はどこまでの大きさがあるのか分からないが地平線の方まで広がっており、逃げようにも逃げれないし行くあてもない。
「…………そろそろ良いか」
しばらく飛び自分もほうきに乗るのが慣れてきた頃、魔女はほうきの高度を低くして、街中の路地に降りた。
「──リフト」
そう唱えると同時に魔女の手にあったほうきが、白い光の粒になって分散した。おそらくほうきは魔力的な何かで構成しているのだろう。
魔女は帽子とローブもほうきの様に消し、外見では魔女ではなくただの少女になった。
「こ、ここって魔女の迫害とか、そ、そういうのがあるんです……?」
「……まあ、そう捉えて貰って構わない。そんなことよりこんな所まで連れてきて申し訳なかった。もう用はないからさよなら」
「えちょ……」
足早に立ち去ろうとする魔女の腕を咄嗟に掴んでしまった。心臓の鼓動が早まるのを感じながら、──な、何してるんだ俺!?──と自分の行動に自問する。
度胸はある(自称)が人間関係の1つも建てたことのない俺が、そもそも他人と関わりを持とうとして失敗してしまうのはほとんど前提条件みたいなものであったが、いきなり手を掴むとかどう考えても頭おかしいだろ……!?!?
結果、ほとんど他人と関わりを持ったことのない俺が手を掴んで止めたとしても何も言えるわけがなく、掴まれた魔女も何も言わずお互い沈黙の時間が続く。
やがて魔女が呆れたようにため息をついた。
「…………手、離して?」
「あ…………そ、その……名前を……」
「カケルに名乗る名前はない。それに私、急いでる。それでは」
「あ……」
無理やり手をほどかれ、そのまま魔女は路地の奥に進んで──
「「え……!?」」
不意に魔女が横に倒れ、その場所には赤い液体の湖がどんどん広がっていく。
「……血!?」
「おんやぁ? コレ、見られちゃったねぇ? キミ、見ちゃったねぇ?」
「……!?」
すると、すぐ横の暗闇から右手に血のついた刃物を持ち、不気味な笑みを浮かべた男がいた。
俺は男から発せられる迫力と殺気に怖気付き、半歩下がってしまう。それを見た男は口元を更に大きく歪めて笑った。
アニメとか小説とかの主人公とかと違って、実際に現場に立ってみると自慢の度胸などはどこかへ行き、心の底から恐怖心が湧き上がり足が動かない。
「おんやぁおんやぁ〜? もしかして怖気付いちゃったぁ? 逃げたくなっちゃったぁ?」
「ッ……!?」
「逃げれるかなぁ? 逃げれないよねぇ? 逃がさないよぉ〜? ボクゥ」
男がゆっくりと近づいてくる。すぐに応戦、もしくはこの場から逃げないといけないのだが、わかっていても恐怖で足が動かない。
「ひっ……!?」
恐怖で腰が抜けてしまう。それを嘲笑うかのように正面に立った男は、ゆっくりと刃物を上に掲げる。
「アハハァ! ばいばァい!!」
──死ぬ!?!?
「──…………クロス・ブレード──」
「……!? な、なにィ……!?!?」
突如薄く白い光の纏った剣が男の体に突き刺さり、大量の血飛沫を出しながら吹っ飛び、沈黙する。
剣が飛来してきた方向を見ると、魔女さんがこちらに弱々しく右手を伸ばしていた。
「あ、ま、魔女さんっ……!!」
ふと我に返るとすぐさま倒れている魔女の元へ駆け寄り、手を取る。
「大丈夫助けてやるから安静に!!」
魔女は主に腹部から出血しており、その出血は今も続き、大量出血で体温も分かるくらいに低下している。
──くそ……!! 大量出血した時は間接圧迫法で出血を止めるんだけっか……? いや、腹部だから直接圧迫法の方がいいのか? くそ……ちゃんと勉強しておくべきだった……。
「くそ……!! どうにか……どうにか助けないと……でもどうやって……」
今の俺がどうやっても助けることができないのは見てわかる。
だが助けてやりたい。助けたい。どうしても。絶対に──でもどうしてだ、なぜこんなにも強く想う? 初対面で交流もなければ名前も知らない。なのになぜ俺はこんなにも助けてやろうと思うのだ? こんなにも血を流す彼女を見るのが悲しいのだ?
「──か……け、る……」
どうしようもなく右往左往していると、
「……!! 魔女さん!?!? よかった生きて──」
「すま……ん…………さよな……ら──」
「あ────」
瞳から光が消え、彼女は息を引き取った。
俺はその場で膝をつき、涙を流す。何も出来なかった無力感。死なせてしまった悲しみ。これまで何もしてこなかった自分自身の過去の後悔。あの時呼び止めていれば良かったという後悔──。
結局俺は何も出来なかった。
咄嗟に手を取ってしまったあの時、あのまま手を離さなかったら……。
ほうきに乗せてもらったあの時、もっと別の場所に降りていれば……。
召喚されたあの時、自分のスキルが分かって入れば何かしらの抵抗ができたであろうに……。
……いや、そもそも俺なんかが異世界に──
「くそぉ……いってぇじゃねぇ〜かぁ」
「──」
後ろで男が刃物を手に立ち上がる。黒い服にはいくつか切り裂かれているが、なぜか血は出ておらず無傷のようだ。
対して俺は体は万全ではあるが武装は一切なければ自分のスキルも知らないし、この辺りのというか異世界の地理なんて知るわけもないわけだ。つまり絶体絶命な状況である。
だがそんな状況でありながらも恐怖は感じなかった。
「──許さねぇ……!!」
俺はただがつしゃらにその辺の石を投げつけた。だが簡単に避けられてしまう。
「アハハッ!! そんな石ころでボクが倒せると思ったぁ〜? おめぇ〜にボクは殺せねぇ〜よぉ〜!」
「……ぁあああああぁぁぁ!!!!!!」
俺はただ我武者羅に石を投げつける。それになんの効果も、この状況を打破する決定力となるはずがないのも分かっている。だが、そうとわかっていても俺は石を投げつけた。
しかし、それら全てを男が難なく弾き返す。
「ぐ……」
「焦ってるぅ? 焦ってるねぇ!? ァハハハハハっ!! いいねぇいいねぇ。圧倒的っ!! 恐怖っ!! 焦りっ!! 怒りっ!! 無力感っ!! ッ最高だねぇ~その感情っ!!!!」
何度目か、落ちていた石を取ろうとした手が虚しく空気を掴む。同時に男も大きく口元を歪めながら接近してくる。
「クソっ!! もう石がっ……!」
「はぁ~い残念だったねぇ? ボクももぉちょっと堪能してたぁいんだけどさ~ぁ。そろそろ殺らないと怒られるからさ~」
「っ……!?」
「じゃ~ぁ。さよならぁ~!!!!」
刃物が俺めがけて振り下ろされる。
そのスピードはあまりにも早く、俺は避けるにも防ぐにも不可能だった。ゆえに、俺はその刃物に切り裂かれて死んだ──────
「──喚は見事成功でおじゃるなあ!」
気が付くと、そこは白塗りで統一された壁や天井に、その壁が中央にぶら下げてあるシャンデリアの光を反射することによってこの部屋を隅々まで照らし、床も白で統一され中央には赤い絨毯が敷かれている空間に立っていた。もっと言えば、周囲には俺と同じ学生服を着たクラスメイトが、豪華な椅子に座った貴族のオッサンがこちらを見渡している。
俺はつい今の今までここから遠く離れた路地にいたはず。なのにこうしていきなり貴族の屋敷に戻っている。そして俺はここに戻ってくる瞬間、あの男に斬られて死んでいたはずだ。なのに今もこうして生きている。
──死んだら発動し、その効果は過去に遡ることができる。つまりそれって──
「──死に戻り……!?!?」
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