GWスペシャル四コマ漫画-2


 第五話 男の無駄遣いを女性は理解できない



「今の見てたか?」

「テレビ? 全面真っ白のジグソーの話し?」

「おお、すごく面白そう。早速買ってみよう」

「…………何のために?」

「え」


 なにその質問。

 理由なんかないけど。


 パズルする意味を説明できる人なんていねえだろよ。



 日曜日の朝。

 ジョギングの後、当たり前のように我が家で飯を食うこいつは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 三人前作るのも四人前作るのも手間は変わらないし。

 それどころか、料理中に話し相手がいてくれることが嬉しくて歓迎なんだけど。


 たまにこうして。

 困った難問を飛ばして来る。


「ねえ、何のため?」

「そう詰められても困る」

「無駄遣い厳禁……」

「無駄じゃあないよ。絶対面白い」

「モテたいからじゃなくて?」

「どうしてそう思った!?」

「だって、モテ男の部屋アイテムって紹介されてた……」


 ダイニングテーブルに置いた携帯には、既にカートに入れた二件の表示。

 それを覗き込む秋乃の声のトーンに不穏な何かを感じずにはいられない。


「そ、そうでしたっけ?」

「うん」

「それは気づかなかったです」

「じゃあほんとに、模様の無いジグソーをしたいだけ?」

「そう! ほんとにそれだけ!」


 ほんとのことを言ってるのに。

 我ながらものすごくウソっぽい。


 そんな俺の言葉を聞くなり伸びて来る真っ白な指。


「じゃあ、この高そうな額縁はいらない」


 ぽちっとキャンセル。


「うぐ」

「そしてこっちも」

「パズルはいいだろ!?」


 荒げた声も柳に風。


 秋乃はカートの中身を空にすると。

 ご馳走様と手を合わせ。


 テレビ下に放置したままだった、二千ピースのジグソーパズルをリビングテーブルにぶちまける。


 そして。

 ピースを一枚一枚。


「あ」


 ひっくり返しながら振り向いた。


「……無駄遣い厳禁」

「へい」

「あと、モテそうなセンパイも必要最低限で」

「…………へい」





第六話 資格は大事よ



 別にモテたいから、とか思ったわけじゃない。

 でも、ちょっとは素敵と思われたい。

 俺をそんな気持ちにさせた原因は。


「おしゃれですねぇ! 先輩のお家!」

「うん。ここに住もう」

「早速家財道具を取りに行こうとするんじゃねえ」


 かことみらいのタイムマシンコンビ。

 その襟首を捕まえて。


 流行りのY2Kよろしく、おへそまる出しにさせてリビングへ引きずり戻すと。


「にょー!? センパイ! セクハラだよ!」

「にゅ!」

「うるさい。こいつらほんとにやりかねんから」


 待っていたのは拗音トリオ。


 そう、今日は。

 部活探検同好会の番外編だ。


 よそ様の部では、合宿するのが定番のゴールデンウィーク。

 我々も何かしなけりゃいかんだろうと言い出した二年生たちが。


 まずは計画を立てようと。

 俺の家に収集をかけたんだが。


 さっきから遊んでばかりで何も決まらない。

 でも口出しもあまりしたくないし。


 仕方ない。

 秋乃と二人で、離れて見ていよう。


「た、立哉君……。勉強してないで、会議に混ざらないと」

「一年二年で決めればいい。俺は資格について調べてるとこだから邪魔するな」

「しかく?」

「そう。進学前に取得できる物があれば取っておきたい。そして受験戦争が終わったら、俺は約束された未来を手に入れる!」


 彼氏らしく、たまにはかっこよく。

 そんなセリフをドヤ顔で吐いた俺に。

 ギャラリーから、余計なヤジが飛んで来た。


「せんぱぁい。それ、死亡フラグですぅ」

「生還しないヤツ」

「下らんこと言ってないで先に合宿の内容決めてしまえ。いくつかめぼしい資格ピックアップしたら、ちゃんと後から追いつくから」

「それもフラグですよぉ?」

「朱里先輩が早速回収しようとしてる」

「にょー! そうです! 真面目に参加しない人には、こうです!」

「つめてえ!」


 他人の家の中で水鉄砲撃つやついる!?


「冗談じゃねえ! 俺は安全な外に逃げさせてもらう!」


 そんな捨て台詞とともに扉を開けた俺は。

 洗車用のホースで水撒きしていたカンナさんが手を合わせて謝る姿に。

 水が滴る前髪の御簾越しにご対面。


 全身びっしょりになって無言のまま部屋に戻ると。

 一級フラグ建築士の資格証明書を、秋乃から手渡されたのだった。





 第七話 俺は絶対にお袋似



「モテ先輩を目指す立哉君」

「悪かったって十回は謝ってると思うのですが」


 昨日の一件を。

 未だに根に持つこいつは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 だが、こいつによる指摘は。

 わざわざモテ先輩を後押しするような物だった。


「鼻毛が一本出てる……」

「まじか」


 朝、身だしなみは散々確認したはずなんだが。


 思いがけない見落としに赤面しつつ。

 席を立とうとしたその瞬間。


 秋乃の鼻の下に。

 何か、線のような物が見えた気がした。


「……お前も出てないか?」

「絶対そんなこと無い……」

「じゃあなぜ手で隠す」

「無い。あたし、鼻毛自体ない」

「そんなわけあるか。見せてみろ」

「ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ。……なんだっけ?」

「案ずるな。酸欠になったら記憶に障害くらい起きてもおかしくない」


 たいにいや。

 まで言わずもがな。


 八つ裂きにされてもおかしくない失言をした迂闊な俺が席を立って洗面台へ向かうと。


 秋乃もいそいそと。

 鼻を隠しながらついて来る。


「覚えとるやん」

「な、何のことでしょう……」

「別に恥ずかしいわけじゃない。粘膜とか、弱いところを守るために必要なものなんだから」

「弱いところ?」

「そう」

「じゃあ、あたしの鼻は弱くないから生えてない……」

「だからウソつくなって」


 見栄を張るとこじゃないだろう。

 別に不作法とも思わねえよ。


 でも、秋乃はよっぽど気になったのか。

 俺を追い抜いて、足早に洗面所へ駈け込むと。


 頭皮を掻き分けて鏡で確認していた親父と鉢合わせ。


 そんな親父を早くどけたかったんだろう。

 秋乃は親父の肩を叩くなり。


「おじさまのオツムが弱くない証明」


 それはむしろ誇るべきだと言い聞かせて。

 目論み通り、洗面所から親父を追い出した。



 もちろん。

 親父は泣きながら外に出ていった。





 第八話 効果には個人差があります



 結局、合宿の詳細は決まらないまま。

 明日も一年、二年のバイト後。

 何をしようか俺の家で打ち合わせをする運びとなり。


 五人を駅まで見送った帰り道。

 ふと思い出したことを聞いてみた。


「そうだ。お花屋さん、病弱なんだって?」

「こ、ここのとこ病院と散々往復して五キロも痩せたって……」

「そっちのお花屋さんじゃなく」


 俺の言葉に。

 ああなるほどと手を叩くのは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 うわさでしか聞いたこと無いし。

 しかも、たまに無理やり髪を無茶苦茶にセットして満足そうにするほど元気だから。


 大丈夫なんじゃないかなと教えてくれた。


「そうか」

「それより……、こんにゃくゼリーってダイエットにいいの?」

「そりゃもちろん」


 昨日スーパーで買って。

 花屋の丸い方のおばさんに秋乃が渡したはずのお徳用こんにゃくゼリー。


 いつもより食を細くして。

 満足できない分を補えば食べ過ぎ防止になるわけだから。


 そんな俺の返事を聞いて。

 胸をなでおろした秋乃が語りだす。


「良かった……。ほんとに効くのか、心配だったから」

「何の話?」

「五キロ痩せたから、何か甘いもの持ってこいって言ってたお花屋さん」

「ああ。マカロンの代わりに、ちゃんとこんにゃくゼリー渡せたか?」

「それがね? 渡した分のゼリーを全部平らげて」

「抱えるほどの大袋を!?」

「これでさらにダイエットできたって言いながら、巨大マカロンもペロリと」

「質量保存の法則って知ってる?」


 俺は、天才科学者であるはずの秋乃に。

 失った五キロは既に補完されているであろう旨だけを伝えてやった。

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