GWスペシャル四コマ漫画-1


 第一話 活舌のせい



「ミ、ミルクは、おいくつですか?」

「ふたっちゅ」

「え? あ、はい。二つお付けしま……、す?」


 お隣りのレジで。

 料金を受け取った後。


 頭にハテナマークを浮かべながらコーヒーを淹れに行った店員さんは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 小さな女の子を抱いてコーヒーを一つ注文した牛島さんが。

 俺の顔を見ながら苦笑い。


「ああ、秋乃。牛島さんはブラック」

「え? でも、その子が二つって……」


 そう、この子はすごく頑張った。

 だから俺は、頭を撫でてあげながら。


「良くできたねえって褒めてあげたいとこだけど。君の名前はくるみちゃんな」

「え? え?」

「くるみは、おいくつですか?」

「ふたっちゅ」

「よくできました」

「ぎゃふん」


 古典的な笑いに。

 古典的にリアクションした秋乃は放っておいて。


 片手じゃ難儀だろう。

 俺は牛島さんのコーヒーを代わりに運んであげた。


 そしてレジへ戻ると。

 

「さ、砂糖、おいくつですか?」

「九十とふたっちゅ」

「きゅ……!?!?!?!?」


 最近常連になったお婆ちゃん。

 いつもホットをブラックで召し上がる佐藤さんを前に。


 秋乃が頭を抱えていた。





 第二話 イメージのせい



 バイトを早上がりしてまで。

 どうしても連れて行けとせがまれて。


 甘いものが苦手な彼氏としての。

 器量が試されるスイーツショップ。


 テイクアウト専門の店先から並ぶ行列に。

 こうして付き合わされているわけなんだが。


「並んでるし。女の子しかおらんし」

「それは当然……。男子が食べてたら、笑われる……」


 この、彼氏を女子と勘違いしている女は。

 舞浜まいはま秋乃あきの


「で? なに屋なんだ、ここ」

「大人気のマカロン専門店」


 ちっこいわりに。

 ケーキ一個分近いお値段でお馴染みのあれか。


 まあ、スイーツは苦手だし。

 量の塩梅的にはちょうどいい。


 でも、ここから見る限り。

 どの子も紙袋一杯に買ってるみたいだけど。


 それ、ひとりで食う訳じゃないよね?


「美味いの? デザインがいいの?」

「大きさが可愛いの」

「可愛い」


 その、女子がむやみやたらに使う形容詞。

 信憑性が無いんだが。


「具体的に。どんくらい?」

「ウズラくらい……、かな?」

「なるほどそりゃ可愛い」


 そうか、小さくて有名なのか。

 並べて写真撮ったら可愛かろう。


 でも、皆さん程たくさんいらないよな。

 この間のトラで散財したばっかりだし。


 俺は、さりげなく秋乃より前に出ておいて。

 順番が回って来るなり、機先を制して注文した。


「五個。それ以上はいらない。色はお任せで」


 ……そんな注文をした三分前の行動を。

 公園のベンチで反省し続ける俺がいた。


「親鳥の方か……」

「可愛い」

「その、男子には絶対理解できない日本語を俺は駆逐してやる」





 第三話 イチゴミルクのせいじゃない



 ちょっと分かるようになると。

 俄然興味が湧くようで。


「これ、食べてみたい」

「こんにゃくゼリーね。はいはい」


 帰りに寄ったスーパーで。

 知らない食べ物を片っ端から欲しがるこいつは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 でも。

 さすがにそれはダメ。


「これ、飲んでみたい」

「バカ言うな、お酒だそれは。よく缶を見ろ」

「……ほんとだ」


 イチゴとミルクの絵が可愛らしくて。

 手に取りたくなる気持ちは分かる。


「確かに飲みたくなるな、そのイラスト」

「この絵でお酒って、ずるい」


 しょうがない、イチゴと牛乳を買って。

 それっぽい飲み物でも作ってやるか。


 俺がそんなことを考えながら。

 缶を棚に戻した秋乃のことを見つめていたら。


 こいつは諦めきれないのか。

 缶を指さして聞いてきた。


「1%未満って、果汁?」

「アルコール分だろ。たしか1%未満って、まるで酔わないって聞いたな、親父に」

「酔わないのにダメなの?」

「ダメに決まってるだろ」

「法め……」

「そうな。きっと当局は相当恨みがあるんだろうな、イチゴミルクに」

「イチゴミルクが何をしたというのか……」


 怒れる秋乃の手を引いて。

 アルコールのコーナーを抜けると。


 そこはセット扱いか。

 おつまみがずらりと並んでいた。


「じゃあ……、これ、食べてみたい」

「なるほど。きっと相当な事しでかしたんだろうな、イチゴミルク」


 俺は、法で規制されていない。

 アルコール分5%と言われる奈良漬けを取り上げて棚に戻した。





 第四話 5%



「マカロン、一袋貰っていい?」

「四袋も残ってるから構わんけど。家で食うの?」

「お花屋さんに持って行きたくて」


 お花屋さんか。

 秋乃にとっては二軒隣りのご近所さんだからな。


「おすそわけか」

「それがね? 最近病院通いしてるって言っててね?」


 なるほどお見舞いか。

 そういう事ならぜひ持って行きなさい。


 俺は秋乃にマカロンを手渡しながら。

 ふと、どなたのことだろうかと考える。


 お花屋さんって、親父や凜々花が言うには若いお兄さんとお姉さんが店番に立つことあるらしいけど。


 俺、丸いおばさんと細いおばさんしか知らないんだよね。


「随分お疲れみたいだったから、朝、声をかけてみたの」


 ……あ。

 そう言えば、凜々花が言ってたな。


 細い方のおばさんが。

 長い事病気を患ってるって。


 あんなに綺麗で元気なのに。

 随分細身な理由はそういう事なのか。


 下手すりゃ四十キロ台。

 そんな身体で、よく重そうな荷物をバンに詰めてるのを見かけるもんだから何度か手伝ってあげたことがある。


 心配だな。


「げっそりって、どんな感じに?」

「一週間で、五キロも痩せちゃったって……」

「はあ!? ちょ……、大丈夫なの!?」

「喜んでた」

「そっちは誤差!!!」


 いっぱい歩いてものすごく痩せたと大喜びする丸いおばさんに。

 減った分甘いもので埋めたいから沢山持ってこいと頼まれたらしい。


 もちろん俺は。

 マカロンを取り上げて。


 こんにゃくゼリーを手渡した。


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