第40話

 街行く人々は、いつかの村を襲った兵士たちと、面影が似ている。兵士の防具などもそっくりだ。そして、街の端に滑走路があることも、僕のサーチでは分かっている。

「こちらに」

 僕たちはまっすぐに、細長い物の方へと案内された。近付くにつれ、それだけ他の建物と違い、キラキラと光る場所があるのがわかった。僕の予想は、確信へと変わっていく。

「あなたは、ここまで」

 ヘトは、直前で止められた。もはや不満そうな顔すら出来ない様子だったので、少し安心する。

「ここから先は、普通の人間は入れない。だが、お前なら大丈夫だろう」

 入口の扉は開いていた。数本、錆びたコードが飛び出ている。

 中に入ると、まっすぐに通路が続いていた。両側に扉があり、壁にはスイッチやランプが付いている。どこか懐かしさを覚える。が、灯りは蝋燭だった。

 特に何も言われていないので、まっすぐ進めばいいのだろう。外側は古ぼけていたが、中はとてもきれいにされている。

 突き当たりに、大きな装飾された扉があった。ピラミッドで見たことのあるような紋章が、銀色の金属で作られている。僕が前に立つと、左右へと開いた。懐かしの自動扉だ。

 予想通り、中は操縦室だった。モニターや計測器がいくつも並び、中央には船長用のものだろう大きな椅子がある。だがもちろん、僕の世界ではこんなものを造ったことはないから、これが一般的な形なのかまでは分からない。

「ようこそ」

 そして、そこにアイネはいた。前回破壊された部分もきれいに修復されている。

「あなたたちの船ですね」

「その通り。ここにやってきた、忌まわしき箱」

 そしてアイネの隣に、一人の青年がいた。アイネの座る椅子に手をかけ、背筋を伸ばして立っている。右目が不自由なのかほとんどあいておらず、左目だけでこちらを見つめている。

「そちらは誰ですか」

「感染者よ」

「感染者?」

「そう。この計画をはじまるきっかけになった、世界への感染者」

「世界への感染? どういうことですか」

「私たちが来たことによって、この星に生命が感染したわけ。でもね、生命の源はそれだけじゃなかったの。この世界そのものが、生命の源泉を含んでいたみたい」

「……」

 青年が、何やらぶつぶつと呟いている。僕の聴覚を持ってしても、何を言っているのかを聞きることができない。

「そして、彼は世界そのものに触れて生まれてきたの。この世界の本質を感じ取る能力があるの、素敵でしょ」

「それは素晴らしいですね」

「そして、彼は言ったの。創造主がやってくるって」

「……」

「まさか、それがあなただったなんて、ね」

 僕は、表情を変えようのない仮面を睨んだ。全く予想外の事態に、両手に汗がにじんでいるのがわかった。

「不思議なことを言いますね」

「そうかしら。あなたは自ら、それを見せてくれた。そして、あなたはあたしを取り込んだ。だから、あたしもあなたを感じられる」

「……」

「あなたが誰かを救いたいように、あたしも救いたい。もう遅すぎるのかもしれないけど……あたしは、帰って助けたい」

 僕の中にあるアイネのかけらが、その思いの切実さを伝えてくれた。

「逃げだしたくなかったんですね」

「ええ。あたしは、自分たちの力で勝ち取るものだと思っていた。それを彼らは……」

「彼らは、なぜここに乗り込んでこないのでしょう」

「そうね……この船は、彼らを拒否している、とでも言っておこうかしら。同胞たちの犠牲を、彼らは悼んでいない」

「……やはり、そうでしたか」

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