第31話
雨が降ってきた。
いつも通りの雨なのか、天蓋が落ちる雨なのか、それはまだ分からない。ただどうしても、雨の日は心がざわついてしまう。もともと防水加工の落ちてきた僕の本体は、水に近付くのが危険になっていた。そして、大地が沈んでいく恐怖。
船は完成に近付いていた。この街の人々は全員乗れるだろう。しかし、世界中にはどれぐらいの人がいるのだろうか。この星全体のことを考えると、あまりにもこの船はちっぽけ過ぎた。
どうも最近、人間に肩入れして考えてしまう癖ができている。借りものの器に心を乱されすぎている気がする。
人々は保存食を作ったり、予備の洋服を縫ったりと準備にいそしんでいた。彼らはガイストを信じ、崇めている。それが原動力となって、来るかもわからない有事のために一所懸命になっている。彼らはこの星のことや、この星の外のことなんて知らないままだ。はっきり言えば、ガイストは騙しているのだ。
みぞおちのあたりで、きりきりとした痛みが走ってしまう。人間の体は本当に不可解だ。
足早に目的地に向かう。現場に着くと僕は、船室の中をチェックして回る。人々はここで寝泊まりしなければならないし、ずっと閉じこもっていなければならないかもしれない。どのようなベッドを入れるか、何が必要なのか。人間の生活に慣れていないので、皆と相談しながら決めていく。不確かなものを手さぐりしながら見つけていくのは、大変だ。ミットライトと家を造り、電源確保に頭を悩ませていた頃を思い出す。
「……ん?」
僕は、蝶つがいの様子を確かめていた。それなのに、ざわざわとした感触が体中でし始めた。センサーを働かすが、異常は察知できなかった。それでも、確信に近いものがあった。何か来る。
急いで部屋を出て、船を下りる。空を見渡すが、雨雲しかない。
第六感というものを信用していいのだろうか。それに関しては、あいまいなデータしか残されていない。この世界には解明されないものがあることが解明されている。世界の不安定要素については、それが不安定であることしかわかっていないのだ。
いろいろ考えても仕方がない。できることをするだけだ。
「
自分でも信じられないほどの声量が出た。船の周りにいた衛兵が、笛を吹き鳴らす。街の方で、鐘が打ち鳴らされる。
「どこだ!」
衛兵の一人が聞いてくる。
「わからないですが、来ます!」
そのときにはすでに、僕のセンサーが実体を掴んでいた。直感は正しかったようだが、想像は超えていた。
高速で接近する、小型の何か。温度は非常に低く、構成物質はほとんどが鉱物だった。形は……人型。
対策はしているはずだった。ガイストやリードは、敵の能力を知っていたはずだが、防げなかった。それは、まっすぐこちらに向かってくる。隠しているはずの、護られているはずのこちらに。
「対空部隊はどうした!」
「なんだあれは!」
慌てる男たち。それを見て、勝手に口が動いていた。
「落ち着け! 兵士以外は中に入れ! 無謀な攻撃はするな!」
時が止まっているかのようだった。視線がこちらに集中する、その中で。
「こんにちは。歓迎してくれる?」
透き通った、冷たい声だった。僕の目前、1m。
金色の仮面。細長い目、小さな鼻、そして蛇の刺青が装飾されている。
体は銅や鉄、白銀が複雑に組み合わされている。腰が細く、胸が少し膨らんでいる。
背中からは、大鷲のような翼が生えている。これは合金のようだ。細部まで細かく、一枚一枚彫られている。
それほど大きな体ではない。しかし、気を抜けばすぐに圧倒されてしまいそうだった。
「遊びましょ」
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