第11話
新たな違和感があった。
それが違和感だと認識するまでに時間がかかった。ロボットは曖昧な信号を持ち合わせないからだ。
サーモグラフィで周囲を探る。確かな生体反応、人型が検知される。後方からこちらへと近づいてきている。身長は低い、体型から言って女性だろう。
驚いたことに、向こうはこちらに気付いているようだった。先に見付かったのだ。人間になって気が緩んでいるとしかいえない。
しかしお互いに気付いてからは、こちらの察知能力が上回っているはずだ。相手は僕が気付いているとは思っていない。
だが、異常はさらに感知された。金属反応がある。もちろんそれだけならばアクセサリーなどがあるのだろう、と納得しておけばいい。しかしながら、実際には組織的な金属が、彼女の指先に絡まっている。時代設定に合わない形状だが、持っている以上仕方がない。銃なのだ。恐竜に人間に中世の武器。まったく安っぽいSF(人間が好んだ物語のジャンルのひとつ。ロボットの扱いは大体ひどい)のような世界だ。
聴覚感度も上げ、相手の出方を慎重に伺う。僕はまだ、この世界のことを正確には把握していない。相手が人型をしているからと言って、能力が本物の人と同じだとは限らない。十メートルの跳躍をするかもしれないし、炎を吐くかもしれない。
熱が弾ける感覚があった。反応、数値化、解析、そして感情が一度に起こった……これが人間の能力なのか。だが、人間の体は突然のことに硬直してしまう。ロボットの僕が、それを必死に動かす。弾丸は、左足をかすっていった。
「
甲高い叫び声だった。音感と表情から、言語の意味を解析する。85パーセントの信頼度で、意味を補足できているようだ。ようやく相手の姿を目視する。まだ若い女性で、布を巻いたようなものをまとい、髪は三つに分けて結んでいる。書物には載っていないタイプの格好だ。
それにしても、撃った後で言うのは順番が逆ではないか。
「
残念なことに、言われたことしか理解できないのでは、会話はできない。とすれば、言えることは一つ。
「ヴィーレ」
「
「そう、ヴィーレ」
「
「迷っているよ。旅をしていた」
思わず、自分の言語で答えてしまった。しかし驚いたことに、
「道理で見掛けが変だと思った」
相手はこちらの言語を即座に返してきた。もはや理解不能だが、僕の作った世界の中だから、と無理やり納得する。
「しかし部外者は審査するのがしきたりだ。ついてきてもらおうか、イェ」
僕は両手を上げ(そういうジェスチャーが正しいとインプットされている)、黙って従うことにした。ここで争っても、目的を達したことにはならない。このまま彼らの生活環境の中に入っていくのが得策だろう。
「私の名はフューレン。ヴィーレ、こっちだ」
フューレンは、慣れた手つきで僕の両手を縄で拘束した。人間などにいいようにされるのは腹が立ったが、とにかく我慢だと自分に言い聞かせた。
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