第9話
仮想世界に潜入するためには、僕の機能を全てそちらに回さなければならない。余計なソフトは一時中断し、可能な限りの充電をする。それでもこの設備では、三六時間のダイヴが限界との計算結果である。
科学最盛期ならともかく、この荒廃した時代に、バーチャル・ダイヴすることになるとは思いもよらないことだった。しかも、行き先は自分の創った世界だ。かつての金持ちのどうでもいい娯楽のようなことを、大真面目にやらねばならないのである。
擬似世界潜行計画は、主にミットライトの手によって着々と進められていった。「人型ヴィーレ」の設定は事細かにされていき、先祖八代の名前までインプットされた。ダイヴ手段は僕のブレインに直接コードをつなぐ原始的な方法で、万が一に備えコードレス通信自動切換え設定も付けておいた。現実世界で15時間経つと自動的に通信が切れるようタイマーをセットし、またエネルギー残量が二割を切っても強制的に戻ってくるようにした。また発電機の故障に備え、予備発電機のバックアップ経路の優先順位を変更、とりあえずまず僕の命を守るようにした。
なにせ、初めての経験なので安全性の問題など全く解決はしていない。かつてのバーチャル・ダイヴでのことも記録がないのでわからない。
それでも僕は、行かなければならない、と思う。可能性には、全て挑まなければならない。
仮想世界の僕と共に、現実世界のボディチェックも入念に行った。といってもそもそも内部メンテナンスができないのだから、錆をぬぐったり、汚れを落としたりすることしかできないが。こびりついたものはもうどうしようもなくなっている。
外に出て、この世界を目に焼き付ける。どうしようもない世界。僕ら以外を滅ぼした器。それでも、たった一つの故郷。
哀愁の念は果たしてインプットされていたものなのか。
「ヴィーレ、準備はできたかい」
「ええ、いいですよ」
ミットライトも僕の隣に立ち、しばらく周りを眺めていた。命からがら逃げ延びて、ここまでたどり着いた。この先、僕らはどこにいけるのか。
「さあ、行こうか」
ミットライトから影が伸びる。僕の創った世界でも、影はこんな風に伸びているだろうか。
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