第13話 デート(仮)日和⑤
だから仕方なく、そう仕方なくだ。あくまでやむを得ずだ。
日照雨さんの考えてきた
だが、これを行う上で僕には1つ懸念点が存在している。
「全身コーディネートって言ったってさ、財布のなかにそんなお金ないよ」
昼食と映画代を残すと考えたら余計気を遣わないといけない。
「ふふーん。天空くんは全くお金の心配はしなくていいのです!」
日照雨さんは待ってました! と言わんばかりに二つ折りの財布をカバンの中から取り出し、その中身を僕にひけらかす。
何となく察する。
どうしようもなく財布が膨らんでいるのだ。その膨らみに耐えきれず二つ折り財布のアイデンティティが失われてしまっている。
「どう? こんなに札束が入ってて驚いたでしょ?」
日照雨さんは僕の反応見るのを楽しみにしているのがバレバレな表情を浮かべる。
素直に驚愕の表情をするのも少し癪だなぁ……。
「わーすごいねー。こんな大量の札束どうしたの?」
「棒読み!?」
「僕の反応はどうでもいいよ。それよりこんな大金どうやって用意したのさ」
僕が当然の疑問を投げかけると日照雨さんの表情が一瞬だけ曇った気がした。
――まただ。
そう文字通り晴れマークと入れ替わって曇マークが日照雨さんの頭上に浮かび上がった。
だが、それは先ほど同じようにすぐに晴れマークの陰に隠れ、やがて消えてしまった。
そして日照雨さんもすぐに明るい笑顔を浮かべる。
「えーとね……。それは言えないなー。あはは、ごめんね」
まただ。
そのうちわかるってやつか、これも。
それはまるで何かを誤魔化すようだった。
これ以上踏み込んでいけない何かを感じる。
日照雨さんが誤魔化すのであれば僕も同じように暗い雰囲気にならないように冗談ぽく言い放つ。
「日照雨さんの家って財閥だったんだね」
「財閥だなんてそんなそんな。大したことないよ」
両手を胸の前で左右に振って否定の意を示す。
「日照雨さんが沢山お金を持っていることは分かったよ。それで僕の服の買おうってことだろ?」
僕の問いかけに日照雨さんは首を縦に振る。
「それは――」
僕がさらに言葉を繋げようとしたところを日照雨さんは大胆にも右手で僕の口をふさぎ、これ以上の発言を許さない。
「申し訳ないって言うんでしょ? うん。天空くんなら絶対そう言うと思ったよ。でも、いいんだって。私がやりたいことだからさ」
「でも、それは日照雨さんのご家族が日照雨さんのために用意したものじゃ……」
「うん。そう。私に好きなように使っていいと言われているお金。だから私はあなたに使いたいの」
日照雨さんは妙に真剣な眼差しを向けてくる。
「私の暗中模索な無理難題に協力してくれるお礼」
「お礼って言ったって僕はまだ何も――」
「いいの。お願いだから受け取って。ね?」
今度は言葉で語気で僕を制する。
ここまで強く、そして熱のこもった言葉を浴びせられては太刀打ちできない。
「わ、わかったよ。うん。それじゃあその気持ちに甘えさせてもらうよ」
「うん。ありがとう」
「ありがとうはこっちの台詞」
あはは! とこれまでと変わらない笑顔を見せる。先ほどまでの真剣で篤実な表情が嘘みたいだ。
僕たちはメンズ服が陳列されているお店へ歩き始める。
「これから天空くんは財布持ってこなくてもいいよ」
「……は? どういうこと?」
今、日照雨さんの口から衝撃的なことが発せられた気がしたんだが。
僕は思わずその場に立ち止まる。
日照雨さんはそんな僕の様子に気付き、僕に駆け寄る。
「だからこのお金は私と天空くんのデート資金ってこと。今日だけに限らずにね。つまりー」
「つまり……?」
「ある程度はお金を気にせずに色々なところに行ったり、感情が動くような体験ができるってこと!」
日照雨さんはウインクしながら右手の人差し指を立てる。
その立ち姿が様になる。
容姿が整っていることを否が応にでも再認識させられる。
そしてその表情には「どんなに対抗したって意味ないよ」という文字が浮かんで見えるようだ。
「……うん。わかったよ。でも、自分の食事代くらいは出させてくれ。すべてをだしてもらうのは流石に申し訳なさすぎる」
「まぁそれくらいならいっか! そうと決まれば早く服を見に行こう!」
日照雨さんは左手で僕の右手首を掴み、駆けだす。
「そんなに急ぐと危ないよ」
ボブカットの栗色の艶やかな髪がふわふわと揺れる。
この角度からは彼女の明るい笑顔がよく見える。
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