第12話 デート(仮)日和④

「広いなー……」

 想像よりも天井が高く、開放感があったため思わず口から言葉がこぼれる。

「もしかして天空あまぞらくん、来るの初めて?」

「あぁ……うん。ちょっと色々事情があってね……」


 人が多く集まる場所が苦手ということは日照雨そばえさんには伏せておこう。

 変に気を遣わせるのも申し訳ない。


 僕たちが辺りを見渡していると迷子のアナウンスが流れ始めた。


「本日もご来店いただきまして誠にありがとうございます。ご来店中のお客様に、迷子のお知らせを致します。赤のワンピースとピンクのチェックの靴をお召しになった6歳の女の子が、サービスカウンターでお連れ様をお待ちです。お心当たりのお客様は、1階サービスカウンターまでお越し下さいませ。

 繰り返し迷子のお知らせを致します。

 赤のワンピースにピンクのチェックの靴をお召しになった7歳の女の子がサービスカウンターでお連れ様をお待ちです。

 お心当たりのお客様は、一階サービスカウンターまでお越し下さいませ」


「迷子かー。そりゃあこれだけ広ければ迷子にもなっちゃうよね」


 僕の記憶が確かであればイオンモール利府は全国でも3番目の大きさを誇る。

 一応多賀城市にもイオンモールがあるのだが、利府に行く人が多い。


 利府町は今、とても発展を遂げている。

 全国最大級のイオンモールに加え、コンサート会場やオリンピック会場になっているひとめぼれスタジアムなどが立ち並び、噂によれば子育て支援なんかも充実しているらしい。


 ただ難点なのは公共交通機関では訪れにくいという点だ。

 利府町に行くためには仙台からも多賀城からも乗り換えが必要になる。

 それがとてもとても不便だ。


「ちなみにプランとかあるの?」

「あープランねー。映画は見たいと思っているんだけど、上映までまだ時間あるからね」

「なるほど、映画ね」

 映画は感情を揺さぶられるものだから僕たちの目的にも合致していると言える。

「他には?」

「映画以外にも一応考えてきたんだけどさ……まさかねー……」

「きたんだけど……? まさかって何」

「怒らないでよ?」

 日照雨さんは僕の顔色を窺うように尋ねる。


「怒るかもしれない」

「なんでそういうこと言うの!? そこは『怒らないよ』って優しく言うところでしょ!」

「怒らないよ」

「もう遅いよ!」

 ではどうしろと? 日照雨さんはどたばたと地団太を踏んでいる。


 日照雨さんはもう一度、今度は上目遣いでお願いをする。

「お、怒らないでね?」

「怒らないよ」

「なーんでドギマギしないの!? 普通上目遣いされたら多少なりともドキドキするものでしょ!?」


 上目遣いにそんな絶対的な力はないと思うけど。

 僕は闘牛士のように日照雨さんをなだめる。

「どうどう。落ち着いて落ち着いて。はい、もうこのやり取りいいから。それで考えてきたのって何?」


 日照雨さんは深呼吸をし、話す準備を整える。

 そして、開き直ったような清々しい笑顔を浮かべながらこう言うのだった。


「天空くんの私服が目も当てられないものだったら、全身コーディネートを組もうと思ってました!」


「だから君は僕を何だと思っているんだ」

「あー! やっぱり怒るじゃん!」

「怒っているんじゃない。呆れているんだ」

「同じだよ!」


 全く失礼な人だ。

 どれだけ服装選びに迷ったと思っているんだ。

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