第11話 デート(仮)日和③
「
「あ、いや……なんでもないよ」
あの現象についてはもうちょっと事実を確認してから日照雨さんに報告しよう。今はまだ不確定要素が多すぎる。
「ところでさっきの3つのどれかに当てはまりそう?」
「むー。天空くんっていじわるなところあるよね」
日照雨さんは頬をぷくぅーと膨らませる。
好きだね。その仕草。
「そうかな? 僕はただ日照雨さんがたまにする失礼な発言に対しての仕返しをしているだけなんだけどな」
「そういうところ!」
「んじゃあ、電車もそろそろ来るだろうから改札通ろうよ」
僕はすたすたと改札へ歩いていく。
「あー! 話そらさないでよ! あっSuicaチャージしてない! 天空くん待ってー!」
と慌てて券売機へ向かった。なんとなくわかってはいたけど、慌ただしい人だ。
「あーもうすぐで電車来ちゃうなー。急がないと乗り遅れちゃうなー」
「もう急かさないでよ! やっぱりいじわる!」
もうすぐで電車が来るのは事実なんだけどな。
**
「今日もJR東日本をご利用くださいましてありがとうございます。この電車は東北本線普通、仙台行きです。次は
乗り換えて
やっと降りられる。
僕は電車が苦手だ。
電車というよりは不特定多数の人が集まる場所、端的に言えば人混みが得意ではない。
それは全て僕の"力"のせいだ。
見たくもない他人の感情が天気としてその人の頭上に浮かび上がってくる。
人が多くなれば僕の視界と脳内はたちまち
だから本当は利府イオンのような大型ショッピングモールには近づきたくもない。僕にとっては魔王城のような存在。
そこら中にいる人々の感情が天気となり、僕に敵意を向けてくる。
僕にそれを防ぐ術はない。
ただその刺刺しい感情という悪魔に身を委ねるほかない。
電車を降りてもまた次の地獄が待っている。
でも、そんなことも言ってられない。
いわゆるデートスポットと呼ばれる場所は基本的にどこも人が多いのが基本だ。
だから日照雨さんに協力すると決めた時点でこうなることは覚悟をしていた。
それに――
「えへへー、これが楽しみっている感情なのかなー」
頭上の晴れマークはより一層輝きを増している。
こんな楽しそうな表情を向けられたら、そんなことも言ってられないよな。
乗り掛かった舟だ。今更後戻りなんてできない。するつもりもない。
「それは楽しみできっと合ってるよ。輝きも増しているし」
「やっぱりそうだよね!」
日照雨さんは頭上の晴れマークに負けない笑顔を浮かべる。
感情が――わからない。
それがどれほどのことなのか僕には想像もつかない。
『楽しみ』という誰もが当たり前に感じることができる感情を彼女は知らない。
僕が伝えない限り知る由もない。
僕は決して彼女に同情しているわけではない。
ただ彼女に寂しそうと言われて否定できなかった。
僕は今以上も以下も望んでいないつもりだった。
でも、彼女からはそう見えていなかったってことだ。
だったらもう一度今以上を目指してみてもいいんじゃないのか。
彼女とならそれができるんじゃないかって根拠なんてものはないけれど、あのとき思ったんだ。
僕は
彼女が笑う理由を見つけてあげたい。
そう――心から思った。
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