第10話 デート(仮)日和②

 結局僕の服装はシンプルなものとなった。


 別に考えすぎて逆に何を着ていけばいいかわからなくなったわけでも、日照雨そばえさんに楽しみと言われて考えすぎたというわけでは断じてない。


ガラスに反射する自分を見て、最終確認をする。


 トップスは淡い青色、空色? のスタンドカラーシャツにレギュラーカラーの紺色のニットカーディガン。パンツはベージュの太めのテーパードパンツを合わせ、足元はnewbalanceの黒のスニーカーを選んできた。まぁこれはいつも登校時にも履いているものだけれど。


 いわゆるキレイ目スタイルという類に分類されるのではないだろうか。

 メンズのファッションはシャツを着ていれば何とかなる。そんな考えを僕は持っている。偏見か?


この服装が僕の考える女子ウケに振り切ったコーディネート。


 改札の右側、すなわち城南じょうなん地区のほうの階段を慌ただしく駆け上る音が聞こえる。

 ちなみに多賀城の南に位置するから城南である。


「あっ天空くん! おはよ! 待った?」

 やはり足音の正体は日照雨そばえ瑞陽みずひ

 今日、デート(仮)をする相手である。


「待ったけど、電車には余裕で間に合うから全然大丈夫」

「そこは『全然待ってないよ。今来たところ』って言うところでしょ!?」

 それが当たり前のように言われても困る。

「デート(仮)なんだからそんなこと言わないでよ」

「(仮)言わないで!」


 日照雨さんのぼやきを聞き流し、頭上を見る。

 相も変わらず晴れマークのみが悠々と浮かんでいる。

 快晴だ。


 日照雨さんが嬉しかったり、楽しいから晴れマークが浮かんでいるのか。

 今からデート(仮)だからその可能性はある。

 物は試しだ。協力すると約束した以上俺にやれることはやらなければならない。


「日照雨さん」

「んー?」

 スマートフォンを手鏡代わりに手櫛で前髪を整えている。


「今日の服装いいね。似合ってる」

「……へ? うぇぇぇっ!?」

 日照雨さんは普段の元気な姿からは想像もできない腑抜けた声を出し、手に持っていたスマートフォンがすっぽりと手から抜けた落下する。

「あっぶっな!」

 僕がすんでのところでなんとかキャッチする。

 まだこんな反射神経があったとは。自分で驚く。


「気を付けなよ。本当に」

 僕は日照雨さんに忠告をしながらスマートフォンを返す。

「あ、ありがとう……。だ、だって急に天空あまぞらくんが似合うなんて言うから……」

 日照雨さんは顔を紅くして、ふるふると動揺を隠せずにいる。

「いや、僕だってそれくらい言うよ」

 だから君は一体僕を何だと思っているんだ……。


 日照雨さんのコーディネートは白のロンTにオーバーサイズの白シャツを羽織り、裾にかけて広がるダークブラウンのフレアスカートだ。

 清潔感が日照雨さんの周りに漂っている。

 何とも日照雨さんらしいというか。日照雨さんは綺麗というよりは可愛らしい顔立ちで身長は150㎝前半。そのためこのようなゆるっとしたようなシルエットの服が様になっている。


「あっ、天空くんこそ意外と私服おしゃれだね」

「意外とは余計だ。父さんが服とかそういうのに興味があるからさ、僕も人並み以上に服に興味をもつきっかけはあったんだよ」

「な、なるほどねー……」


 僕は日照雨さんの頭上の晴れマークを再度視界に捉える。

 日照雨さんがここに来たときよりも心なしかマークが大きく、そして輝いている気がする。

 さっきより嬉しさが増したということか?

 なんとも仮説が立てにくい。

 しかし、考えられるのはこれしかない。


「日照雨さん一応頭上にあるマークを見た」

「あ、そうだよ! 忘れてた」

 忘れるな。


「まぁ相も変わらず見えるのは晴れマークだけ。快晴だよ。ただ僕の勘違いかもしれないけれど、ここに来たときよりも今のほうが晴れマークが大きく、そして輝いている気がする」

「そ、そうなんだ」

「これらから考えられることは……」

「考えられることは……?」


 日照雨さんは固唾を飲んで僕の次の言葉を待っている。


「この日照雨さんが来てから今までの一連の流れのなかで日照雨さんが"嬉しい"だったり"楽しい"っていうポジティブな感情を感じたことになると思う」

「な、なるほど……。ん? ちょ、ちょっと待って……」

 日照雨さんも気づいたようだ。


「そう。だから考えられることは大きく分けて3つになると思う。日照雨さんは僕に私服姿を褒められて嬉しくなった、または僕の私服姿が思いのほかおしゃれで似合っていたから照れた。そして、最後――」

「ちょっ! も、もう言わなくていいから!」

 日照雨さんは顔をさっきまで以上に赤くしながら、力に任せて僕の口を手で抑え込もうとしている。


「さ、最後のひ、1つは僕とので、デート(仮)がた、楽しみで仕方が……なかった……だろ?」

 日照雨さんに邪魔されながらも僕のその手を振りほどき、かいくぐりながらなんとか言葉を繋いだ。

「あ、あぁ……言った――言いやがったーー!!」

 日照雨さんはさらに力を込めて僕に怒りをぶつける。

「や、やめろ……口から出てしまった言葉はもう戻らないんだから……?」


 その瞬間、僕は初めての現象を目にした。


「……? 天空くん?」

 一瞬。そう本当に一瞬だけ日照雨さんの頭上に雷マークが浮かび上がったのだ。

 そして、その雷マークはすぐに晴れマークの斜め後ろに隠れ、消えてしまった。


 な、なんだ今のは……。

 雷マークが浮かび上がったということは日照雨さんの感情は怒りということだ。

 まぁ確かに怒ってはいたな。

 ただ問題はそこではない。


 一瞬で消えてしまった。


 それに日照雨さんに晴れマーク以外の天気マークが浮かび上がったのは初めてだ。

 もしかしてこれまでも晴れマーク以外が浮かび上がっていたときがあったのか……。

 僕がそれを見逃していた可能性は大いにある。


 浮かび上がったのは一瞬ですぐに晴れマークが前に出てきて、消えてしまったんだから。

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