デート(仮)日和

第9話 デート(仮)日和①

「暖かい」

 右手で日よけを作り、青空で悠々と上から照りつける太陽を仰ぎ見る。


 今日の最高気温は確か20度くらい。

 今は9時だから大体15度くらいだろうか。

 時折優しく頬を撫でる風が気持ちいい。まさに過ごしやすい気候だ。


 僕は日照雨そばえさんとの待ち合わせ場所である国府こくふ多賀城たがじょう駅の構内にいる。


 **


 <日照雨そばえ瑞陽みずひです! 天空あまぞらくんよろしくね!>――18:35

 先ほど学校で連絡先を交換した彼女からのメッセージ。

 アニメのキャラクターが敬礼しているスタンプと一緒にメッセージが送られてきた。

 <こちらこそよろしくお願いします>――18:37

 <デートの件どうしよっか?>――18:37


 返信はやー……。


 僕のメッセージから間髪入れずに送られてきた。


 <利府イオンに行くのは確定でいいと思う。あとはいつ行くか。僕はGW中特に予定ないから日照雨さんの予定に合わせるよ>――18:40

 <それじゃあ8日の日曜日にしよ! 時間はどうしよっか。10時から11時くらいの間に行けばいいかな>――18:41


 僕はメッセージアプリを1度閉じて電車の時刻を調べる。

 利府りふちょう多賀城たがじょう市の隣町。

 乗り換えが必要になるが、電車で行くのが早いし、楽だ。


 時刻表をスクリーンショットして、それを日照雨さんに送り付ける。

 <10時から11時だとこの辺の電車に乗ればちょうどいいかと>――18:45

 <天空くん調べてくれたの!? 行動が早いね、助かる! >――18:45

 そりゃあどうも。

 でも、君の返信も十分早いよ。


 <それじゃあこの9時20分国府多賀城駅発の電車に乗ろ! でことで1日は国府多賀城駅集合ねー>――18:49

 <了解>――18:50


 メッセージが終わり、スマートフォンを投げてベッドに寝転ぶ。

 だが僕のそんな思いとは裏腹にスマートフォンが震える。

 もう日時も待ち合わせ場所も決めたのにまだ何かあるのか?


 不思議に思いながら体を起こし、日照雨さんとのメッセージ画面を開く。


 <天空くんデートに着ていける服ある? 大丈夫?>――18:51


 目に飛び込んできたとんでもないメッセージを見て、意味を理解し、僕はスマートフォンを再度ベッドに投げつけ、寝転ぶ。


 うーん。

 なんだ。

 日照雨さんはなんだ。

 今日知り合ったばかりの男にこんなジョークが言えるとは。

 日照雨さんの距離感がおかしいのか。

 はたまた僕がいじりやすいのか。


 はぁ……。

 既読をしてしまったからには返信しなくては。

 今、返信しないとあとあと面倒になりそうな気がする。

 いや、日照雨さん相手なら必ず面倒になる。


 <君は一体僕を何だと思っているんだ……>――18:54

 <いや、天空くん服とか興味なさそうだなと思ってさー。当日楽しみにしてるね!>――18:55


 僕の服なんかを楽しみにしてもらっても困るんだけどな……。


 <当日何着ていこっかなー?>――18:55

 <悩みすぎて遅れないように気をつけてくれればいいよ>――18:56

 <もうー! そんなこと言って天空くんこそ私の私服姿に見惚れないよう心構えしておきなね>――18:57

 <はいはい、しておきますよ。じゃあまた1日ね>――18:57

 <めちゃくちゃテキトー!?>――18:57


 スマートフォンを手放し、クローゼットに目を向ける。

「何着ていくか決めるか……」


 あんなこと言われたからには少しくらいは日照雨さんを驚かせてみたくはなる。

 クローゼットを勢いよく開放し、持っている服すべてに目を通す。

 と言っても男子高校生が持っている私服なんてたかが知れているため、一瞬だ。


 腕を組み頭の中でコーディネートを考える。


 シルエット。

 色味。

 明日の気候。

 そして、考えても仕方がないが日照雨さんが明日着てきそうな服。


 それらを複合的に考えて、いくつか服を取り出し、全身鏡の前で体にあてがっていく。


 世の女性は男なんてデートに臨む姿勢は軽いなんて思っているかもしれない

 デートの前に服装や髪型に悩むのは男女共通なのである。


――デートに着ていける服ある?


 そんな安い煽りに屈するわけには行かない。

 日照雨そばえ瑞陽みずひに一泡吹かせてやりたい。


コーディネートを組むうえでの要素は様々ある。


だが――明日に限っては女子ウケに振り切ってやるよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る