第五章 秋水の迷い、コーヒーと共に (昼偏) その一
秋水と正行は、目下、元家族である長谷川綾子が住むマンションに居候をしている。
秋水からすれば、元妻。
正行から見れば母親である。
家の老朽化のため仮住まいとして綾子が宿泊を勧めたのだ。
「……六階まであるけど住んでいるの私だけよ。昼間は私の会社の社員がいるから、そうでもないけど世の中物騒になって来たでしょ? だから、私としても都合がいいの」
引っ越しの箱詰め作業を手伝っている綾子は「どうして、母さんの家に泊まるんだろう?」という息子の問いに答えたのが、先の言葉である。
要するに、二人は用心棒なのだ。
正行は普段は学業と修行があるので家にいる時間はさして多くない。
対して秋水は個人経営の不動産仲介業なので必要がなければ外に出ず、亡くなった春平の形見だった老眼鏡を自分の視力に調整したものを使いパソコンを使い、いろいろしている。
もちろん、居候の身だから、簡単な掃除や洗濯、料理は作る。
人参やセロリを適当な大きさに包丁で切りながら割烹着姿の秋水は説明する。
後ろの家庭用にしては最大級のオーブンレンジが鳴った。
呆然とする石動たちを無視して中から鉄板を取り出した。
中には様々な形態の骨が薄い茶色に染まっていた。
「……何の骨ですか?」
恐る恐る問う石動。
あっけらかんと秋水は言った。
「うん? 牛骨、正確には仔牛の骨だよ」
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