第四章  ようこそ、お茶会へ(現実編) その五

 サクサクのスコーンが口の中でホロホロと崩れる。


 甘すぎず、されど、粉っぽさもない。


 紅茶もまた美味い。


 無糖でも茶葉の香りや味が程よく出ている。


「贅沢に、丁寧に淹れているのね」


 ナターシャは思いを馳せる。


 きっと、よい茶葉の地域を見つけ、契約したのだろう。


 製法や輸送にもこだわったはずだ。


 大量の、ティースプーンなどではなく袋から直に大きめのポットに入れて熱湯を間髪入れずに注ぐ。


 それを小さめのポットに茶こしで茶葉をして入れ替える。


 それから、カップに入れて供される。


 入れたのは熟練した店員だろうか?


 ふと、タルトを見る。


 よく見る、フルーツ盛り合わせの様な豪勢さはないが、新鮮な果実を丁寧に処理して細工したことがよく分かる。


 これも、フォークで切り分けて口に入れる。


 文字通り、果実の味がよく分かる。


 洋梨、林檎、栗……


「あら?」


「どうした?」


 ナターシャの喜びを含んだ驚きに、石動が顔を上げる。


「これ、珍しい隠し味をしているわ」


「珍しい隠し味?」


「わずかにだけど、タルトにかぼちゃのペーストを入れているのよ」


「へえ」


 石動はまじまじと残ったタルトを見る。


「このかぼちゃは果実の甘さを引き立たせるために入れたんだわ」


「そうなんだ……」


「秋水さんがいたら、再現していたかも……」


 その言葉に石動の顔は若干強張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る