第四章 ようこそ、お茶会へ(現実編) その三

 市街を出て一時間。


 田畑の広がる田園地帯を抜けて車は山道を通る。


 時々、山道を登るハイカーに遭遇する。


 その中腹辺りに一件の日本家屋があった。


 大きな門には手彫りで『平野平』と彫られた表札がある。


 だが、中を見て驚いた。


 立派だった日本家屋が黄色いヘルメットを被った大工たちによって解体されてた。


 瓦や畳は剥がされ、板材がむき出しで壁も壊されている。


 何度か訪れたことのあるナターシャは驚き、石動もまた驚いた。


 とりあえず、近くに車を止めて石動が中に入った。


 指揮をしている大工の頭領に話しかけ、何度か会話をして戻ってきた。


「あなた……」


 不安な妻に夫は軽く笑った。


「大丈夫、家の改築だそうだ……おやっさんたちは今、別のところにいるらしい」


 そう言って、石動はスマートフォンを操作しておやっさんこと平野平秋水に電話を掛けた。


 石動経由で秋水を初めて見た時は、その大きさに驚いた。


 夫に武芸を叩き込み、闇社会に誘った張本人。


 しかし、その彼は実に紳士的で親切でユーモアがあった。


 異国の地に来た彼女に日本のことを一から教え、一緒に編み物をしたり日本の伝統料理を作ったりしてくれた。


 不動産仲介業者と言うことで家も与えてくれた。


 今の自分たちがあるのは、彼のおかげである。

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