第四章 ようこそ、お茶会へ(現実編) その二

 持って来た荷物をタクシーから愛する夫の愛車に詰め込み、石動肇の運転する車にナターシャも搭乗した。


 シートベルトをすると車のエンジンがかかり、駐車券を自動精算機に入れて要求された金額を石動が支払い、朝の街を走る。

 

 特別混雑はしていないが、横断歩道を渡る人々は、身なりはそれなりにいいが、その頭上の空の青さに気づきもしない。

 

 晴れた日には庭の手入れをして小一時間で終わらせると置いてあるガーデニングテーブルでお茶を飲み、空と語り合う。


 ナターシャの日課である。


 澄んだ空気を思い出す。


 しかし、周りは大型トラックやバス、バイク、通勤車などの排ガスが鼻腔に入る。


「ナターシャ。大丈夫か?」


 赤信号で停まった時、石動が声をかけた。


 気丈に振舞おうとするが、やはり、気分はすぐれない。


 石動は懐に手を入れ、すぐにひっこめた。


 いつものくせで煙草を吸おうとしたのだろう。


 だが、それは妻であるナターシャをさらに苦しめることも知っている。


 石動はカーナビを起動させ、数度操作すると言った。


「少し時間がかかるが、裏道を使おう。ここより、排ガスはマシなはずだ」


 同時に信号が赤から青に変わり周りの車が動き出す。


 石動は絶妙のタイミングで車線を変えた。

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