第一章 ただいま、銭湯中につき その9 秋水編

「公安のお偉いさんがわざわざ東京から来たら幽霊になった爺様は『そんなことより、仕事してください』と言っていますよ」

 秋水は不愛想に言った。

――早く水風呂に入りたい

 百戦錬磨の強者つわものも脳が溶けるような気分だった。

「まあ、ほら、今の俺なんて『早期退職をして指導員として特別委任された』ただのオジサンだよ。お給金も大分減らされた」

「……生活安全課でしたか?」

「手広く生活のトラブルを解決する部門でね。の高度な戦闘能力や経験、情報網は実に役に立つ」

 猪口の言葉に秋水は皮肉めいた笑みを浮かべた。

の権力は俺たち『厄介事引受人トラブルシューター』にとって非常に有益ですよ」

 何気に二人は相手の顔を見た。

 そして、お互いが汗をかくほど熱い室内で笑いそうになった。

『まるで、俺たちは自分の尾を飲み込むウロボロスの蛇みたいではないか?』

 結末は……共食いで自滅ある。

 秋水は呟いた。

「俺たちのご先祖様は厄介な遺言をしたものです」

「確かにそうだ……」

 猪口は背筋を伸ばし、朗々と言葉を出した。

「我が猪口家は如何様な時代でも中央政界に入り込み、日本を変えるよう努力し必ず日本を変える」

 秋水も同じように背筋を伸ばし、朗々と続いた。

「我が平野平家は鬼となりて猪口家を守り、星ノ宮を守る」

 終わると同時にため息を吐いた。

 意外なことに、疲れたのか、先に出たのは猪口であった。

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