第一章 ただいま、銭湯中につき その8 秋水編

 平野平家の家長。

 平野平秋水。

 二メートルを超える巨体。

 鎧にも似た筋骨隆々の体には無数の傷がある。

 多くは薄くなっているが削り取られたような跡、皮膚が引きつっているようなものある。

 一瞥しただけで誰しも畏怖する。

――まあ、この顔に傷がつかなかっただけ運がいいよ

 秋水は、ときどき自分の傷を見て恐怖する者に笑わせようとする。

 その秋水を子供のころから知っている猪口は、その傷の多くが先代である春平から受けたものだと知っている。

 今でこそ、陽気な秋水だが元々は真面目で寡黙な子供だった。

「あー、熱い……」

 秋水はサウナに入ってはじめて口を開いた。

 ただの感想である。

 数分前に係の男性達が入ってきてロウリュをし、乾いたタオルで熱風を掛けた。

 彼らはすぐに退室したが猪口と秋水にはきつかった。

 秋水は持って来たスポーツドリングを飲もうとしたが、すでに一滴も残ってはいなかった。

 怒る気力もない。

「そうだ、秋水君」

 猪口が口を開いた。

 彼は幾分余裕がありそうだ。

「春平さんのお葬式に行けなくってごめんね」

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