第一章 ただいま、銭湯中につき その3 猪口編

『カレー』と呼ばれる料理がある。

 百年ほど前に英国イギリスから紅茶などとともにやって来た料理だ。

 現在、そのカレーは独自の進化を遂げ、専門チェーン店や調味料が出来た。

『日本食』と言われて久しい。

 多くの日本人もまた、多少の差さえあれ『家庭の味』の代表格としてあげるほど愛している。


 猪口直衛いのぐちなおえも熱狂的な愛好家ではないにしても仕事場の食堂や家族と行くファミレスなのでカレーがあると注文する。

 本人の言としては「当たり外れが少ないから」という。

 その彼が最近カレーで驚いた。

 休日に幼稚園児の孫と知育番組を見ているとテレビの中の女性がこう言った。

――インドにはカレー粉はないんだよ

 これには、孫以上に驚いた。

「ねえ、おじいちゃん。カレー粉がないのにどうやって、カレーを作るの?」

 祖父に聞く。

「さ……さあ?」

 そこから番組は進行した。

 何でも、煮込み料理の総称が『カレー』なのだという。


 その日。

「ご注文のチキンカレーです」

 豊原県星ノ宮市郊外。

 大手カレーチェーンに猪口はいた。

 目の前のテーブルには大好きなチキンカレーがある。

 その前で、スーツ姿の男が上品に野菜カレーを食べていた。

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