第一章 ただいま、銭湯中につき その2

「いたた……」

 若者は蹴られた足をさすった。

「事前にメールやTwitterに連絡をくだされば……」

 苦し紛れに若者は若干男を睨んだ。

「あんなもの、ハンバーガー屋の包装紙みたいなものさ。価値がない」

 老人は言い切った。

 その時だけは、この老人が強気に出た。

 若者はすぐに気持ちを切り替えた。

「上司が待っています。車を用意していますので……」

「いや、結構。俺たちがまとまっていれば怪しむものもいる。別れていこう」

「場所は分かりますか?」

「迷子になったらお前の、無価値な通信機に連絡をする」

 無価値な通信機とは、たぶん、スマートフォンだと思われる。

 と、出入り口が急に賑やかになった。

 一つの生き物のように黒山の人だかりからカメラなどのフラッシュや女性の黄色い声が上がる。

――ああ、世界的有名なミュージシャンかな……?

 若者はのんびりそう思った。


 自然と老人をタクシー乗り場に連れていく若者、その老人、ミュージシャン集団という順番で外に出た。

 数歩歩いて『この先がタクシー乗り場です』と案内しようとした瞬間。

 老人が不自然に横に飛んだ。

 そして、地面に落ちた。

 赤い液体が老人の頭から広がり、目は何も写していない。

 あまりのことに呆然とし、そして叫んだ。

 それを合図に街頭灯やガードレールが破裂した。

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