プロローグ 2 夢でも会いたい その一
一人の青年が豪雨の中にいた。
立っている地面に激しい雨粒が叩きつける。
ジーンズにも、シャツに羽織っているカーディガンにも靴にも靴下にもすでに雨水が染みこんでいる。
それでも、青年は動けない。
動かない。
青年の名は、平野平正行。
『平野平』は「ひらのへい」ではなく「ひらのだいら」と読み苗字である。
『正行』は素直に「まさゆき」と読む。
その『正行』という名をくれた祖父が癌によって他界した。
葬式の間、ずっと泣いていた。
後悔、悲しみ、痛み……
様々な感情が雨粒になり体を叩いているようだ。
在籍している大学では『明るい純情青年』がぼんやりとしていた。
周りを見ても雨が強くほとんど分からないし、知る気も起らない。
――雨の世界
正行は、ぼんやり気が付いた。
『そうか、この世界は俺の心そのものなんだな……』
止む気配はない。
それどころかますます雨足は強くなる。
もしも、これが現実の、以前の正行なら急いで家に帰り風呂に入り、白湯を薬と飲んで寝た。
風邪を引けば、家族の一人が何かしら温かい料理を作ってくれた。
そんな気も起きない。
ただ、ただ、濡れる。
ふと、正行の周りだけ雨が止んだ。
上を見ると誰かが傘をさしてくれたのだ。
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