プロローグ 1 夢で会いましょう その六
「後悔?」
普段冷静な男が、この言葉を聞いて声をあげて笑った。
だが、だぶだぶのスーツを着た老人は顔色一つ変えない。
「貴方が俺のことをどれだけ知っているか分かりませんが、自分の人生において後悔はありません」
男は答えた。
真顔だ。
「そうかい? 俺にはむしろ、後悔が多すぎて臆病になっているような気がしたんだが……」
この言葉にも男は鼻で笑った。
普通なら激昂するものもいるだろう。
だが、老人も調子を崩さない。
男は続ける。
「俺にとって、後悔とは『死』です。だから、与えられた環境、現状、立場……それらを理解し、思考し、実行する。仮にそれが劣悪な環境であったとしても、最善を尽くし仕事を全うする。これこそ、自分の主義、ポリシーです」
しばし、沈黙が流れた。
「立派だねぇ」
老人の言葉には敬意と若干の呆れが入っていた。
「でも、疲れないかね?」
「だから、寝るのです」
至極当然のごとく男は言った。
老人は目を閉じ、少しだけ考えた。
すると、徐々に風景も自分も老人も淡くなる。
男は理解した。
今宵の世界が終わる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます