プロローグ 2 夢でも会いたい その二

 正行は雨粒が当たらないことに気が付き、後ろを向いた。

 そこには、見慣れた祖父が時々 見せていた『何でも知っているような』笑顔で孫のそばにいた。

 立派な紳士傘を持っていた。

 一秒もこらえることが出来なかった。

 背比べをすれば、約三十センチほど違う。

 正行のほうが背が高い。

 体重、筋肉量も正行のほうに分がある。

 それがいきなり抱き付いた。

 祖父は突然のことに目を白黒させたが、孫が変わらず、泣き虫で優しい性格なので安心した。

 傘は落とさなかった。

 奇跡と言えよう。

「爺ちゃん、死んだんじゃないの?」

「うん、死んだね」

 涙で濡れた顔を上げた正行の言葉に祖父である春平はあっさり頷いた。

「四十九日は過ぎたよ。閻魔様に会いに行くんじゃないの?」

「その閻魔様の委託で用事があってな、ついでに様子を見に来た」

「い……委託?」

 何か死後の世界にあるイメージが崩れる。

「まあ、お前が思っているように四十九日になるまでは猶予期間で現世で好きなことが出来た。テレポートも使えるから、前々から行きたかったリドー運河やカナディアンロッキー、ペトラ遺跡、アムステルダム寺院にも行った。世界遺産は制覇したぜ」

「いいなぁ、いいなぁ」

「いいだろう? でも……」

 得意満面だった祖父の顔に陰りが出た。

「でも、全て一瞬で分かったしまうんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る