プロローグ 1 夢で会いましょう その四

「一杯、付き合わないかね?」

 男の目が細くなる。

 ここはホテルの外観はしているが、彼にとっては聖なる御堂だ。

 そこで酒を飲むという不埒なことは許されることなのだろうか?

「……ああ、酒じゃないよ」

 老人がいつの間にか出したのは、長細く、表面がなだらかに隆起している陶磁器だった。

 日本の寿司屋などで見る、湯呑だと悟る。

 で何度か日本で見たことがある。

 現実の世界でも日本食を謳うレストランでも出された。

 だが、中から香るものが違う。

 緑茶より、深みが違う。

 老人は、湯呑の上を持ち下の足を支えて静かに飲んで見せた。

 いつの間にか、老人の同じものが自分の目にも合った。

 男は老人の真似をして湯呑を持った。

 中は茶色い湯で満たされていた。

 静かに、少しだけ飲んでみる。

 男の目が見開いた。

 紅茶とは違う匂いだ。

 ほんのり香ばしい匂いと苦み。

 そこに潜む甘み。

 甘味で疲れた舌が目覚める。

「……美味いな」

 珍しく男は感動を言葉に出した。

「それはよかった」

 老人がちょっと胸を張る。

 土瓶から老人は自分の湯飲みにほうじ茶を注いだ。

 と、男の目が細くなる。

「あなたは、誰です?」

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