プロローグ 1 夢で会いましょう その三

 男は、椅子に座る老人を見た。

 この世界は、男の夢の世界だ。

 願えば何でも叶う。

 実際、この有名なホテルを無人にして食事を楽しむなんて文字通り『夢物語』でしかない。

 完全再現ではないが、何度か宿泊して、それなりの形にはなっている。

 客も従業員もいない、無人のホテル。

 そこに老人が何の予告もなしに現れた。

――男は寂しかったのか?

 それはあるかも知れないが、ならば彼が知っている人物が出てくるはずだ。

 いや。

 例えば、雑誌や新聞で見た顔なのかも知れない。

 改めて老人を見た。

 老人も興味深げに男を見た。

 

 東洋人だとは、目の色や平べったい顔で分かる。

 ただ、白髪で所々皴も刻まれているから若くて六十代後半か七十代前半。

 見て直感的に思うことは普通の老人だ。

 街で孫と一緒に散歩でもしていたら絵になるだろう。

 ただ、男は、すぐにその考えを改めた。

 一般人に間違えやすいが、老人からは血のにおいがした。

 だぶだぶのスーツから素肌が見え傷が刻まれていた。


 自分も同じように老人に観察され、正体が見破られているかもしれない。

 だが、老人はニコニコしたままだ。

 そして、言った。

「一杯付き合わないかね?」

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