プロローグ 1 夢で会いましょう その二

 目を閉じて数秒。

 再び目を静かに開ける。

 高級なテーブルの上にはダークチョコで固められたカットされたケーキと紅茶があった。

 ケーキが乗った皿を近くに置き、添えられた銀製のフォークで切り分ける。

 少し表面にひびが入ったが、男は気にせず切り分けた一片を口の中に入れる。

 最初にラム酒の香りが口と鼻に届く。

 舌は甘く、ほんの少しビターなチョコと柔らかいスポンジを感じる。

 誰もいない、無音の世界。

 味に集中できる。

――この味だ

 静かに、しかし、無我夢中で食べる。

 この世界で鳴っているのは、ほんのわずかな食器が触れ合う音だけだ。

 食べ終えた。

 実に楽しい時間だった。

 少し温くなった紅茶を飲む。

 そこに柱時計が大きな音を出した。

 反射的に前を見た。

 目の前に、スーツを着た老人がいた。

 だが、そのスーツは身丈に合ってない。

 パンツの裾は何重にも床に落ちている。

 ネクタイで辛うじて止まっているシャツもよれよれだ。

「初めまして」

 自分と同性の老人は軽い笑顔と共に言葉を出した。

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