第8話 右手の甲を舐める

 ニコニコとこちらを見ている白石さん。


 ただただその表情は恐怖でしかない。

 痛い、そんな言葉で抑えられないほどの激痛があるはずだ。

 なのになぜ彼女は叫ばない、むしろ喜んでいるんだ。


「ね〜優くん。昨日の私みたいに舐めてよ〜。お願い〜!」


 ポタポタと白石さんの右手から血が地面に向かって流れ続けている。


 保健室に、今すぐ保健室に連れていかなきゃ。


「し、白石さん。話しは後にして保健室に──」

「じゃあさ、優くんがここを舐めてくれたら行ってあげるよ」と右手の甲を指さしながら言う白石さん。

「わ、わかりました……」


 仕方がないことだ、自分の意思で舐めようとしているわけではなくしなければならないことだからだ。


 と自分に言い聞かせながら、俺は白石さんの右手を両手で支える。


「ふふっ♪、ならよしだね。でもこれで私だけ傷あとが残らなかったらまたやらなきゃだな〜痛いのまた味わらなきゃか〜、あっ。優くんだけ傷が残らなかったら優くんにもう一度やるからね♡」


 驚きで身体が熱いはずなのに背中がゾクゾクとした。

 恐怖だ。

 白石さんの見たことのない顔を見て驚いているんだ。


「じゃあ……舐めます」

「しっかり舐めてね」


 舌を右手の甲につける。


 血の味がした。


「ん……///」


 口全体に血の味が広がる。

 

 ああ、たしかおなじ血液型の人以外の血は体内に入れちゃダメだったんだっけ?


 一旦、舌を離して。


「白石さんって何型ですか?」

「ABです……」


 同じだ、なら安心して舐めれるな。


 また俺は舌を右手の甲につける。


 一瞬このまま時間が止まって仕舞えばいいな、と思ってしまった自分は変態なのかもしれない。


「……よしっ、取ってよしです!」


 ああ、もういいのか。


 俺は右手の甲から舌を離し、口周りをペロリと舌で一周した後白石さんを見る。


「ああ……私っ、死んでもいいです///。じゃあ、優くん。私は保健室に行ってくるとしますのでこれで。あっ、最後に連絡先を交換しましょっ」


 明日、明日こそ昨日の話の続きをするとしよう。


 白石さんはポケットから一枚の付箋を取り出し、俺に渡す。


 そこにはトークアプリのIDが書かれていた。


「今日は手に傷をつけるのとこれを渡したくて呼んだんです。ほら、私って目立ちますよね? だから、電話とかでしか話すタイミングがなくてですね……」


 学年一可愛い女の子の連絡先を手に入れてしまった……。

 よくよく考えると学年一可愛い女の子の血を吸ってしまった。


「わかりました、じゃあ後で追加しておきますね!」


 本当に白石さんは俺のことが好きなのかもしれない。

 いや、かもではなくて確定だ。


「はい! 待ってます。たくさん電話しましょうね♡」

「う、うん……」


 ただ姉さんが白石さんと付き合うことなんて許してくれるはずがない。

 もし付き合うとしたら内緒でだよな。

 って何俺は勝手に一人盛り上がってんだ。


 無理もない、こんな美少女が自分のことを好きだと言っているのだ。


 白石さんはニコリと微笑むと。


「約束ですよ♡」と言い、髪をなびかせながら後ろを振り向き屋上を去っていった。


 とりあえず、アイコンをもう少し可愛らしいやつにするとしよう。

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