第5話 姉と同級生

 じーっとこちらを見ながら白石さんは笑顔で。


「ねぇ〜優くん? この人って昨日見た気がするんだけど気のせいかな〜♪」


 怖い、怖い、怖い、怖い。

 目が笑ってない、というか……本当にこれはまずい、両目を抉られるぞこれ。


 逃げ出したい、今すぐこの場からこの修羅場という場所から逃げたい。


 けれど、時はすでに遅く白石さんは俺の手を握っていた。


 に、逃げれない。


 姉が俺と白石さんが手を繋いでいるのを見ると。


「優ちゃん? その子誰かな?」


 バチバチと目と目を合わせる睨み合う姉と白石さん。


 本当に最悪だ。

 修羅場すぎる……。


「あなたこそ誰ですか〜♪。優ちゃんって結構仲が良いようですね」

「ええ、だって私と優ちゃんは一緒にお風呂に入る仲だもの。それだけじゃなくて一緒に寝る仲よ?」


 やめてくれ、これ以上状況を悪くさせないでくれ。

 頼むからやめてくれ。


「って、優ちゃん!? 顔の傷……それに手の傷!? 一体何があったの!?」


 どうやら白石さんにつけられた傷に気づいたらしい。


「い、いやあ……転んじゃってね」


 これ以上状況が悪くなればこんな傷じゃ済まないかもしれない、だから姉さん、白石さんをこれ以上刺激するようなことはしないでくれ。


 そう心の中でお願いする。


「だっ、大丈夫!? 病院行く?」

「ううん、大丈夫だよ」


 本来行くのがいいだろうけど、これ以上姉を心配させたくない。


「後で私の唾液を塗ればすぐに治るから大丈夫よっ!」と天使のような笑顔をする姉。


 すると、白石さんは俺の右手の甲を上にするように下から両手で支えながら。


「いいえ、私の唾液の方が治りますよ♪」


 次の瞬間、右手の甲にヌルッとした生ぬるい液体が垂れ落ちる──。


「え?」


 右手の甲を見ると白石さんが唾液を垂らしていた。


「え、え、え、えええ──ッ!」と慌てて右腕を振り払う。


 まじか、まじか、まじか!?

 妄想なんかじゃない、今完全に白石さんが俺の手に唾液を垂らしたぞ。


 じゅるりと垂れた唾液を飲み込むと、白石さんは。


「もう少しつけないと早く治りませんよっ♪」

「あなたが誰か知りませんけど、優ちゃんの姉として破廉恥なことはダメです! そもそも優ちゃんは私以外の女の子といちゃダメなんですよ?」


 そう言いながら、階段を降りてくる。


 もう一生この右手を洗うものか。

 包帯もすぐに外して保管してやる。


 本当に自分はどうかしている、今がどれだけ俺の命に関わる状況なのかわかっていないのだ。


「へえ……姉ですか。って姉──?」


 徐々に姉は俺に近づいてきて、とうとう耳元まで来たところで右頬に何やらヌルッとした湿った柔らかい感触がした。


 右頬を見るように目を動かすと。


 そこには俺の右頬を舐めている姉がいた。


「ね、姉さん!?」


 俺から離れると、舌が口元をぺろりと一周した後。


「早く治るおまじない♡」


 ガチで二人とも、すぐに治りそうな気がします。


「ちょっと待ってください……あなたは優くんの姉なんですか?」


 姉の発した『姉というワードに白石さんは引っかかったようだ。


 お、これなら誤解が解けるんじゃ。


「ええ、そうよ。姉よ、いいえ、優ちゃんの一部よ」


 何を言ってるのやら。


「ずるいです……」と顔を下げて小さな声でボソッと呟く白石さん。

「ん、なんて言ったの?」


 すると、白石さんは顔をあげて大粒の涙を流し泣きながら。


「あなたばっかり優くんと家族でずるいですっ!」

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