第4話 両目を抉りたい

「えっと……本当に転んだだけなのかな」と困惑する保健室の女性の先生である桐谷先生。

「は、はい……ちょっとフェンスで……」

「本当だね? よしじゃあ、消毒を──」

「いててて!」


 痛い、そんな単語に抑えられないほどの激痛が身体全体に駆け巡る。


 放課後、なんとかして白石さんの誤解を解かなければ俺が死ぬ。

 どうすればいいんだ。


「はい! よく頑張った。消毒はこれで終わり! あとは絆創膏をっと。これでよし!」

「ありがとうございます」


 それにしても、白石さんが俺に告白してきたのは夢じゃないもんな……。

 まじか、まじでか。


 なんでこんなにもやられておいて嬉しがる自分がいるのか。

 とても不思議でしょうがない。


「傷ついた生徒を癒す。それが保健室の先生の仕事だからね! ドジっ子くん」

「は、はあ……」



 こうしてやってきてしまった放課後。


「本当に大丈夫かあ?」と朝から俺の傷の心配をしてくれる真一。


 本当にいいやつである。


「うん、まあ大丈夫」

「わーた、お前がそういうなら大丈夫だな。じゃあな!」と席を立ち上がる。

「うん、じゃあな!」


 真一が教室を去っていった。


 俺はスマホの電源をつけ、トークアプリで姉に『ごめん、今から用事がある』と送ると、一瞬にして既読がつく。


『わかった、待ってます(*`へ´*)プンプンッ!』


 これでよしっと。


 白石さんがこちらを見ながら立ち上がり、教室を去っていくのが見え俺も立ち上がり後を追うように教室を後にした。


 すぐに廊下を歩いている白石さんに追いつき。


「どこに向かうんですか?」

「放課後に一番人気がない屋上です♡」


 まあ、こっちからしてもあまり目立つ白石さんと一緒にいるところを見つかりたくはないため嬉しい。


「さっき、誰とトークしてたんですか?」と低いトーンで言う。


 どうやらそこまでバレていたらしい。

 さすがに姉というのはもう今は信じてくれないということがわかっている。


「と、友達です……」


 すると、ポンと手を叩き。


「なら良かったです! てっきり、彼女さんだと思っちゃいました」

「本当にあれは姉なんだ」

「本当にその笑えない冗談はやめてください、片目ではなく両目を抉ってしまいそうです」


 カッターナイフを頬と手の甲に切りつけてきた人だ、本気だ。


 一日中ヒリヒリが続いていたせいか今となっては痛みに慣れてしまった。


「優くん?」

「はい? なんですか」

「彼女ということを認めて欲しいです。あとはその子の名前と住所も」


 姉といったら状況が悪化するだけである、ならなんで言えばいいんだ。


「なんで、住所も──」

 

 こちらを振り向き、カッターナイフを手に持ち刃を出し。

 美しい天使の笑顔で。


「そんなの家に行って今すぐこれで刺すからに決まってるじゃないですか?」


 背中がゾクリとした。

 背筋が凍るとはこのことを言うのだろう。


 刃をしまい。


「嘘嘘っ♪。話し合いに行くだけですよ」


 彼女の目……本当に嘘なのだろうか。


「あれは──」


 やはり姉としか言うしかない、だから『姉です』と言おうとしたその時だった。


 階段を登ろうとしたところで下からスクールバックを持っている。


「あっ、優ちゃんっ!」


 俺は大きく目を開ける。


 姉が降りてきたのだ。

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