第3話 可愛いは最大の凶器

「ほっ、本当なんだ! あれは俺の姉なんだ……嘘な感じゃない」


 俺は必死にそう言い続ける。


 本当になんで俺はこんな目に遭っているんだ。


 わからない、ただただ恐怖で身体が震えている。


「はいはいはいはい、それはもういいです。どっからどう見ても付き合っているようにしか見えませんでしたし」

「本当なんだ、だから、だから」


 次の瞬間、目の前にカッターナイフの鋭い先端が距離にして一センチの位置にあった。


 息を吸うことすら忘れるほどの恐怖に身体から力が抜ける。


「言いましたよね、次は目を抉ると……私にそんなことをさせないでください!」


 プルプルと白石さんの手が震えている。


 本当になんなんだよこれは。


 白石さんは手からカッターナイフを落とすと同時に大粒の涙が流れ出す。


「これ以上、私に優くんを大好きな優くんを傷つけさせないでくださいっ!」


 彼女から出た『大好きな優くん』という言葉が脳内を駆け巡る。


「ふえ?」


 可愛いという物は最大の凶器なのかもしれない、こんなにも恐怖で身が震えていたのにも関わらずそんな気持ちは一瞬にして興奮、ドキドキという気持ちに変わってしまった。


「聞こえなかったんですか? あ〜そうですか、もう一度いいます!」


 白石さんは俺の右手の甲を掴み、自身の胸に誘導させる。


 痛い、でも触られて嬉しい。

 可愛いは最大の凶器だ。

 それか突然の出来事に頭がおかしくなっているのかもしれない。


 プニっとした感触がした。

 下着をつけているのだろうけど、それでも柔らかいことがわかった。


「私は優くんのことが大好きなんです、だからそんな私が優くんを傷つけないようにさせてくださいっ!」


 この状況にも関わらず、とても嬉しい気分である。


 なるほど、そういうことか。

 

 納得してしまった。


 どうやら彼女は白石ましろは昨日たまたま俺を見かけてしまい、その際に俺が姉といてそれを彼女と勘違いしてしまったらしい。

 そして、白石ましろ自身、俺のことが好きで嫉妬してしまったということである。


「本当なんだ……あれは昨日一緒にいたのは姉なんだ。一つ上の3年5組にいる姉なんだ」


 ぷくりと頬を膨らませる白石さん。


「もういいですっ! こんなにいっても嘘をつくんですね。今日はもういいですっ!」


 立ち上がり、ふん! とそっぽを向く白石さん。


 なんなんだ本当に……こんなに傷をつけておいてその態度は。

 でも……白石さんは俺のことが好きなんだ!

 いや、大好きなんだ!


 おかしい、完全に麻痺してしまっている。

 この状況で普通嬉しくなるはずがない。


「血、保健室に行って来てください。適当な理由を……私とのことはシーですよ? 飛び散った血は私が綺麗にしておくので。放課後、また会うとしましょう。来なかったら、次は本気で目を抉ると思います♡」


 そう言うと白石さんは去っていった。


 ぷるぷると震えている太ももを叩く。


 保健室に行かなきゃ。


 怖かった、本当に彼女なら目を抉りかねないからである。


 誰にも見つからずに行かなければ……!

 放課後、また会うのか……。

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