第2話 病む美少女

 白石さんに袖を掴まれ、そのまま俺は人気のない空き教室へとやってきた。

 移動中、かなりの注目を浴びてしまった。


 最悪だ。


 腕を組み、こちらを見ている白石さん。


 一体どうしたのだろうか、なぜ俺は白石さんに話しかけられているのだろうか。


 目を合わせるとキョロキョロしてしまうため、頭を見る。


 頬を掻きながら。


「えーっと、俺、何かしちゃいました?」


 と、まるでな○う主人公のセリフのような言葉を吐く。


「最低です……!」

「え……?」


 視界を下に落とし、白石さんを見ると、プクリと頬を膨らましていた。


 見るからに怒っているご様子である。

 それにしても本当に人形のような人である。


 か、可愛い。


「昨日、見ちゃったんですよね。優くんが彼女と一緒にデートをしているところを」

「え、なんですかそれ」


 彼女の言葉を理解することができなかった。

 無理もない、なんせ俺はそもそも彼女なんていないからである。

 じゃあ、白石さんが見たのは何か?

 

 答えはすぐに出た。


 "姉"である。

 多分、白石さんが彼女だと勘違いしたのは俺の姉のことである。

 ならなぜ彼女はこんなに俺に怒っているのだろうか。


 わからないな。


「白々しいですね」


 ポンと手を叩き。


「いや、誤解だ。あれは俺の姉だ、ほら一つ上の三年生にいるだろ!」


 さすがに白石さんもそれぐらい知っているはずだ。


「……? 姉、何を言ってるんですか?」


 ……いや、知らないらしい。


 参ったな、結構有名だ話だと思ってたのになあ。


「そんな嘘をついても私を騙すなんてことはできないですよ?」

「う、嘘じゃない。というか、なんで白石さんはそんなに俺に怒ってるんですか!?」


 そ、それは……、と恥ずかしそうに下を向く白石さん。


 なんだろうか、めちゃくちゃ変な期待をしてしまっている自分がいる。


「そんなことより、あれは彼女ですよね? 嘘はやめてください」


 どうにかしてこの誤解を解く方法はないのか。


「ち、違う」

「いい加減にしてください、これでも私、結構ここに来てるんですよ?」

「ほ、本当だ」


 どうすれば、どうすれば解ける……。


 突如、彼女の目からはハイライトが消えた。


「い、いい加減にしてください……本当に」


 まずい、なんではわからないが白石さんがとんでもないほど怒っているのが見て取れる。


「い、いやだから」


 白石さんはポケットに手をやり、ガチャガチャと音がする。


 な、何をしてるんだ、この人。


 そして、ポケットから何かを出した次の瞬間、右頬に何かが通り、熱くなる。


「え……」と右頬を見ると、切れそこからは真っ赤な血が垂れていた。


 ポタポタと白石さんの手に持つカッターナイフから血が地面に向かって垂れていた。


 その場で俺はしりもちをつく。


 なんで、なんで、なんでなんだ。


「次は目を抉りますよ。そうなる前に教えてください……」


 白石さんはまたがるように俺の下半身に座る。


 なんで白石さんはこんなに俺に怒っているんだまだ。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。


 冷や汗が流れる。

 ドクンドクンと心臓の鼓動が速くなる。


「だから、あれは姉──」


 白石さんが俺の右手の甲に目掛けてカッターナイフを刺す。


 ビシャッと血が飛んだ。


 熱い、熱い、熱い、熱い。


「え……うあああああ──ッ!」


 あまりの痛さにもがきたい、けれど下半身が抑えられていて動かない。


 カッターナイフを抜き、俺の血を手で掬いまるで立派なように唇に塗り、横髪をいじりながらニコリと微笑み言った。


「もうその冗談は飽きました」と。


 

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