10.「Emergency」

 朝早く起きた僕は昨日の出来事を思い出す。

 家族以外の番号が登録されていない僕のケータイに一番最初に登録された番号——それもクラスメートの女の子の番号。

 夜寝るまでLIMEのチャット機能を使って話をした。

 彼女とは仲良くやっていけるかもしれない。

 女の子に対する苦手意識を少しは改善しなくちゃなあ。

 制服に着替えて寮を出るまで僕は初めて出来た友達のことを考えていた。


 女子達の間で自分の名前を聞く機会が増えてきた。

 中には男子がいることに納得がいっていない子もいて、そういう子達はグループになってクラスからは浮いていた。

 そんな中ある事件が起こる。


「あれ? 化学の教科書がない」

 机の中に入れていたはずの化学の教科書が見つからない。

 自分のロッカーには入れていないはずだしどこにいったんだろう? 

 スポーツバッグの中やもう一度机を探してみたけれどやっぱり無かった。

 仕方ないから担当の教師に教科書を忘れたことを申告してから授業を受けた。

 クスクス。

 教室の中で誰かがわらっていた。


 そのあとは何事も無く午前中の授業は終わって昼休みになる。

 僕は今日は相倉さんとお昼を一緒に食べる約束をしていたから携帯と財布をポケットに入れて教室を出る。

「外に出たわよ、行きましょう」

 待ち合わせ場所は彼女から連絡があるって話だけど。

 スマホを操作してメッセージが届いているのを確認していると——

「ごめん、今いいかな?」

 全然知らない女の子に声をかけられた。

「何かな?」

「あなたとちょっとお話ししたいことがあってー。付き合ってくれません?」

 話かけて来た子とは別の女の子ががっちりと僕の腕を掴む。周りを四、五人の生徒に囲まれた。

 そのまま彼女達に引きづられるようにどこかに連れていかれる。


「カーテン閉めて鍵をかけて!」

「りょうかーい」

 最初に僕に声をかけた子周りにいる子達に指示を出す。

 周りにいる女の子は僕が逃げないように取り囲んだ。

「あの、それで話って何かな?」

「うふふ、やっとお話しできそうですわね、小鳥遊勇人さん」

 彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら僕に近づいて来る。

「あなたは今では学園の有名人ですわよ」

 僕の顎に手を当ててそういうとその手をそのまま頬っぺたに持っていく。

「何を!」

「私、欲しいものはどんな手を使っても手に入れるんですの」

 息がかかってしまいそうな距離まで顔を近づけてきたから僕は思わず顔を逸らす。

「さあ、私といけないことしましょう?」

 この場から逃げだそうと体を動かすけど三人の子に押さえつけられていて抜け出せない。

「ちょっと! あなた達、彼が動かないようにしておいて」

「わかってるって」

 腕を掴んでいた女の子は力を入れる。がっちりと固められてしまった僕はそのまま身動きできない。

「あなたが私を最初の恋人だと宣言してもらえるなら解放してあげますわ」

「もしかして目的はそれ?」

「ええ、あなた個人には何の興味もありませんが、わたしが欲しいのは約束された将来ですわ」

「あなたと恋人になれば私の未来は確実なものになります。だからそれを手に入れるためにどんなことでもやります」

「準備できたよー」

 横にいる女の子がスマホのカメラをこっちに向ける。

「ごめんねー。小鳥遊君」

「さあ! あのカメラに向かって私が恋人だと宣言するのです」

「…………」

「さあ! 早く!」

 大きな声で言う彼女に僕はたじろいでしまう。

「ぼ、僕は——」

 ピピピ。

「えっ?」

 ポケットに入れてた携帯が着信を知らせる。

「ごめん、電話鳴ってるみたいなんだけど」

「その携帯を私に渡しなさい」

 腕を掴んでた子は一瞬だけ力を緩めてポケットに手を伸ばしてた。

 しめた! 僕はその隙を見逃さずに掴まれた腕を彼女から引き離す。

「きゃっ!」

 バランスを崩すのを見計らって左腕を思いっきり振り抜く! 両腕が解放された僕は動揺する彼女らを尻目に鍵を開けて一気に教室を抜け出した。

「待ちなさい! ちょっと何をしてるんですか! 追いかけなさい」

 慌てている間に僕は力を振り絞って走る。

「どこに行ったのかしら?」

「見つけないとうちらヤバイよね」

「とにかく手分けして探すわよ」

 ピンポンパンポン

 昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る——僕はホッと胸を撫で下ろした。

「相倉さん怒ってるだろうなあ」

 一緒にお昼を食べる約束をしてたのにあんな出来事があったせいで結局その日は何も食べずに過ごすることに——僕は相倉さんにLIMEでメッセージを送ってから教室に戻った。

 けれど、昼休みにあった女の子たちなんだったんだろう? 

 ちょっぴり女子に対して恐怖感を覚えてしまった。

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