11.「After school〜Lunch box〜」

 *Manami point of view*


「小鳥遊君遅いなぁ」

 今日は一緒にお昼を食べる約束をしてるのに彼はまだ来ていなかった。

「ま、そのうち来るわよね」

 レジャーシートを敷いて二人分のお弁当を置く。

 今朝早起きして頑張って作ったから早く食べてほしいなぁ。


 昨日初めて男の子に自分の携帯の番号を教えた。

 アドレス帳に登録された【小鳥遊勇人】の名前を見ると自然と頬が緩む。

 私が前に通っていた学校にも男子生徒はいたけど皆女子の顔色を伺ってばかりで自分から積極的に関わっているひとはいなかった。

 どこの学校も女子生徒の数が圧倒的に多いから男子は肩身が狭かったと思う。

 小鳥遊君もそうだったのかな? 彼は今でこそ学園中の女の子の注文の的だけど、本人はどう考えてるんだろう? 

「遅いなぁ」

 もうすぐ昼休みが終わろうとしてるのに一行に姿を見せない彼が気になる。

 約束を勝手に破るタイプの人じゃないとは思うけど…………。

 心配になって電話をしてみた。数回呼び出し音が鳴ってから切れる。

 ——呼び出し音は聞こえる、だけど出ない。

 本当に何かあったんじゃ? 不安になってきていても経ってもいられなくなった。

 お弁当を片付けてレジャーシートを畳んで教室へ向かう途中でアプリの通知音が鳴る。

「LIME? 誰からだろう」

 慌ててスマホの画面をタッチしてメッセージを確認した。

『ごめん。ちょっとトラブルに巻き込まちゃって…………。約束破っちゃったね』

『何があったの?』

『会った時にちゃんと話すよ。今日の放課後会えるかな?』

『うん。いいよ』

 スマホをしまって急いで教室へ結局お昼ご飯は食べそこなっちゃったけれど放課後小鳥遊君に会えるからその時に一緒食べよう。


「小鳥遊君いる?」

「相倉さんこっちだよ!」

 放課後にAクラス教室で待ち合わせ──彼はぽつりと自分の席に座っていた。

「お邪魔します」

「この席使ってもいいかな?」

「さあ? 別にいいんじゃないかな」

 私は荷物を置いてから椅子に座った。

「お昼休み本当にごめんね」

「来なかったから心配してたんだー。それで、何があったの?」

「うん、昼休みに相倉さんと一緒にお弁当食べる約束してたから待ち合わせ場所に行ったんだけど、その途中でトラブルに巻き込まれちゃったんだ」

「トラブル?」

「そう、何人かの知らない女子に空き教室まで連れて行かれてそこでちょっと変なこと言われたんだ」

「どんな事言われたの?」

「うん、それがね、僕をそこへ連れて行った女の子達のリーダーみたいな子が『自分を最初の恋人』だって宣言するように言われたんだ」

「最初の恋人…………」

「彼女がどうしてそんな事を言ったの理解できなかったけど、あれも“ハーレム・プロジェクト”が関係してるんじゃないかと思ったんだ」

「そうかもね」

「まあ、顔も名前知らない相手をいきなり恋人なんて言うのは変だし恋愛って言うのはそういうのじゃないよ」

 小鳥遊君は少し無理しているような笑顔をする。

「それで昼休みギリギリまでそこから逃げ出せなかったんだ。相倉さんには悪い事しちゃったね」

「ううん。そんな目に遭ってたなんて私全然気づかなかった。小鳥遊君と一緒にお昼を食べる事しか考えてなかった」

「逃げ出すきっかけを作ってくれたあの電話には感謝しないとなあ」

「電話?」

「そう、僕があの状況どう乗り切ろうかと考えていた時に着信があってそれのおかげで危機を脱することができたんだ」

「それって誰からの電話だったの」

「わからないや。結局切れちゃったからね。今、確認してみようかな」

 小鳥遊君はスマホを操作して着信相手を調べ始めた。

「あ…………」

「どうしたの?」

 私は彼のスマホの画面を覗き込んだ。

『相倉さん』

「えっ…………私?」

「みたいだね、じゃあ僕に電話かけてきたのは相倉さんだったって事か」

 私からの電話で小鳥遊君はトラブルから何とか脱する事ができたんだ。


「相倉さんのおかげだね」

「私はただ心配になったから電話しただけで」

「だけどあの電話に僕は救われたんだ」

「もう! そんなに大げさに言う事じゃないでしょう?」

「そうかなあ? 本当に感謝してるんだけど」

「もうこの話はおしまい! ねえ、お弁当なんだけど今から一緒に食べない?」

「いいよ。僕、お昼食べてないからお腹ぺこぺこなんだ !」

「うふふ。早起きして作ってきたから期待しててね」

 夕焼けが差し込む教室で遅い昼食を取った私たちは下校時間になるギリギリまで話をした。

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