7.「変わっていけるっていう予兆はあったの」

 *Someone's point of view*


「今日は体育館で全校集会がありますから皆さんは出席番号順に並んでください」

 香月先生に説明を受けてあたしたちは並んで集会場に向かう。

「集会なんて正直面倒だなあ」

 なんか今日は理事長から学園に関する重大な発表があるらしくて生徒たちはそれぞれにどんな話なのか予想していた。

 全校生徒が入ってもスペースがあるくらい広い会場はAクラスからFクラスが学年順に整列する。

 一年生のあたしらは先頭に列を作ってその横に二年と三年の先輩たちが並んでいく。

 担任が点呼を取って出席を確認してから理事長が着くのを待つことに。


「生徒の皆さんおはようございます。今日ここに集まってもらったのは学園からの重大な報告があってのことです」

 理事長は準備された教壇の前に立って生徒たちに呼びかける。あたしたちは姿勢を正して黙って話を聞く。

「私の恩人である『小鳥遊美鈴』さんをみなさんの中でも知っているひとがいると思います」

【小鳥遊美鈴】って言う名前くらいはあたしも聞いたことがある。

 確か国の発展に大きく貢献していて様々な形で女性が社会で活躍する場所や人材育成に携たずさわっている、推奨した色々な研究が今は幅広いジャンルや部門で役立っている。

 まさにエリートを絵にかいたようなひとだというイメージ。

 たまたまテレビを点けた時に映っていたきれいな大人の女性。

 まさかあの人が小鳥遊君のお母さんなのかな? って言っても同じ苗字なだけで親子じゃないかもしれない。

 ここにいる子たちも多分知っているんじゃないかと思う。それくらいの有名人、実は前にお母さんが小鳥遊美鈴さんと話をしていたのを見かけたことがある。

 小鳥遊さんはあたしの実家に興味を持ってわざわざ来てくれたみたい。ブランドの名声が地に落ちても個人的に支えているらしい。

 足りない資金も工面してくれてお母さんにとっては恩人といえる人。


「今回、私はその小鳥遊美鈴さんにとある重大なプロジェクトの推進を任されることになりました」 

「近年、男性の生殖機能低下に伴う人口比率の逆転と人工妊娠の増加。それは社会問題ともなっています」

「そんな様々な課題を考慮した結果、政府はある決断をしました!」

「これからの未来のために自然的な人口増加と繁栄を目指し、将来の人口減少を防止し自然生殖活動を奨励した近未来の人口増加を目指す自然繁殖推奨プロジェクト通称ハーレム・プロジェクトを学園主導で進めることになりました」


「我が学園に入学しているAクラス所属の唯一の男子生徒小鳥遊勇人君をその中枢に据え、今回恋麗学園はプロジェクトを担うにふさわしい女生徒を多く育てて、彼と恋愛関係になってもらいます」

 理事長の言葉に会場中の女の子たちはざわつき始める──あたしも何を言っているのかすぐに理解できなかった。

「もちろんそれを望まないという選択肢も選ぶことはできます。学園側から他の学校への編入手続きなどあなたたちが転校先で苦労しないように最低限のことはフォローする準備はあります」

「ここにいる女子生徒全員が将来を約束された存在。誰にでもチャンスがあります」

「最終的に小鳥遊君に選んで貰えるようにそれぞれが努力するように」

 神崎理事長は再度プロジェクトの重要性と意義と生徒たちに説明して全校集会は終わり。


「理事長の言うこと未だに信じられないよね……」

「うん。私らそんな目的があって学園に通わされていたなんて知らなかった」

「そういえば小鳥遊君だっけ? 彼、今日は来てないんだね」

 クラスの目が一斉に彼の席に集中する。なーんだ今日は来てないんだ。

 他所のクラスでも集会の話題で持ちきりで小鳥遊君がいるのかわざわざAクラスまで様子を見に来る子だっていた。

 ここにいるあたしらは将来が約束されている分、他の子たちよりも恵まれているんじゃないかと思う。

 将来? あたしはお母さんのみたいな人になるのが夢でもあった。

 自分のやりたいことが今のあたしには分からない。

 まあ、学園には通うけど理事長の言うプロジェクトに真剣に取り組むのかは別の話。

 示された道よりもあたしが自分で未来を切り開いていくしかないことに価値があるんじゃないかな? 


 “ハーレム・プロジェクト”は学園内に大きな影響を与えようとしていた。渦中の人、小鳥遊君が今日は学園に来ていないことも男子寮まで彼のことを迎えに行こうとする子も出てきた。

 誰にでもチャンスがあるっていう事は逆に考えるとライバルが多いってこと、皆それぞれがどう出し抜いて行くのか思惑を巡らせている。


「……バカみたい」

 昨日まで彼のことなんて気にも留めてなかったくせに。

 あたしは今の状況にうんざりして教室を出た──自分で選んでこの恋麗学園に入ったのに何も変わらない。

 ひとりは別に嫌いじゃないし、人付き合いは面倒だなって感じることはある。

 午後の授業が終わって放課後に、あたしは授業についていくのが精一杯。

 部活も何もしてないやりたいことがないあたしがこの学園にいる意味はあるのかな? 

 急に不安になることがある……。あたしだって強いわけじゃない。

 外を覗いてみると白鳳堂の看板を見かけた。高級ブランドも今では庶民向けの化粧品メーカーとして立場を固めつつある。

 この方向転換に多分お母さんは納得していないと思う。だけど、会社のことを考えたらなりふり構っている場合じゃない。若い女性をターゲットに新しい顧客の獲得と新規層の開拓。

 まだまだ時間はかかりそうだけど白鳳堂は着実に立ち直りつつある。

 家を出てひとりで暮らし始めたはずなのに気になってしまう。

 子どものころお母さんと一緒にお化粧をしたことを思い出す。いつも笑顔だったお母さんがあたしは大好きだった。

 小鳥遊君は自分の運命が決められてしまってどう思っているんだろう? 

 あの厳しそうな母親の期待に応えようと小さな頃から努力をしていたに違いない。

 あたしだって努力はしてきたつもりだけど彼が経験したことに比べたらほんの些細なこと。

 寮の自分の部屋に戻ってから今後の事を考えた。


「あたしはどうしたいんだろう…………」

 したいことと、なりたい自分が見えてこない。しばらくは悩みが続いていきそう。

 だけどね、これから先あたしの心は少しずつ変わっていく予兆がこの時からあったの。

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