5.「全身全力元気系お嬢様!相倉麻奈実」

 昨日電話で神崎さんに頼んでおいた食材が朝早くに業者から届いた。

 サインをして受け取って冷蔵庫に入れる、料理をしない僕にはありがたい電子レンジで温めるだけで手軽にできる食べ物が詰め合わせになっていた。

 普段はメイドさんが作った料理を食べていたから家事をしない僕には本当に救世主的存在だと思う。

 これで食事は困らないで済みそうだ。一応ご飯を炊くことはできるからおかずは今日届いた奴を食べよう。

 けれど、こうやって一人で食事をするのは何だか新鮮だ。

 家にいた頃は必ず誰かと一緒に食べていたから静かな朝ご飯って言うのも案外悪くない気がする。



 ご飯を食べ終えて普段着から制服に着替えてからホームルームギリギリの時間になるように寮を出た。

 あまり早く行っても気まずいからクラスメートが揃った頃合いを見計らって教室に入ろう。

 昨日の朝、小阪さんと話したことを思い出した。

 まだ彼女とはちゃんと話したわけじゃないけれど僕の事を嫌っているわけじゃなさそうだ。

 廊下を通るとこそこそとこっちを窺う視線と話し声が聞こえた。

 女子高に男子生徒がいるっていうことは彼女たちにとってはイレギュラーなんだろう。

 そんな突き刺さるような痛い視線を掻い潜って僕は教室に向かった──というよりは早くその場所から逃げ出してしまいたかっただけ。



「ふう、朝から本当にきつい……」

 なんとか教室にたどり着いて一息ついたけどここはここでさっきよりも強い視線を感じる。

 一番オーラを発しているのはやっぱり小阪さんだった。

「すごい顔で睨んでるなあ……」

 今日も大変な学園生活になりそうだ。



「ここが1-Aの教室ね」

 私はこの学園にいる唯一の男子生徒小鳥遊勇人君の事が気になって彼が所属しているクラスの前までやってきた。

「あら、あなたはこの間の、ここで何をしてますの?」

「ああ! 小阪さん丁度よかった! ねえねえ今、小鳥遊勇人君はいるかな?」

「何なんですの! いきなり! それにあなたはFクラスの人でしょう!?」

「そんなことはどうでもいいじゃない。それよりも小鳥遊君はいるのって聞いてるのよ」 

「知りませんわ! そんなこと気になるなら自分で見ればいいでしょう」

 小阪さんは教室のドアを開けて私に中を見せつけた。

「いないわね」

 教室の中を覗いて見ても彼の姿を見つけることはできない。

「小阪さん、小鳥遊君どこに行ったのか知らない?」

「知りませんわ! 昼休みが始まると同時に出て行ってしまいましたし」

「小阪さんが意地悪言うから小鳥遊君辛くなっちゃったのかもねー」

「何ですって、それはどういう意味ですか?」

「別にー。それじゃあ放課後にまた来るわ」

 私は1-Aの教室を後にして自分の教室に戻る、放課後になるのが待ち遠しくて授業中も上の空で早く小鳥遊君に会いたいと思って胸が高鳴っていた。



「さてと、このあと何をしようか?」

 放課後に特に予定がない僕は帰り支度を整えている途中でこれからの時間の過ごし方を考えていた。

 この学園で僕の心が休まる場所はほとんどない。

 神崎さんに僕がここにいる意味と自分が中心になっている大きなプロジェクトの内容を思い出す。

 プロジェクトの本来の目的を忘れているわけじゃないけれど僕の方から積極的に彼女たちに関わっていくべきなんだろうか? 

 母さんに現状を聞かれたときに何も進展なしじゃまずい……

 このプロジェクトが失敗してしまったらそれこそ僕がここにいる意味も自分が必要とされる理由も無くなってしまう。

 一人だけになってしまった教室の中であれこれ悩んでいると急にドアが開いた。



「あ! いたいたー。ようやく会えたわね!」

「えっ……!? ちょっと!」

 考える間もなく彼女は教室の中に入って来る──目の前の女の子は澄んだ青い瞳と同じ色の艶々つやつやとした髪をしている。僕はその姿に一瞬だけ心を奪われてしまった。

「ふふふ、やっと会えたわね」

「き、君もこのクラスの生徒なの?」

「ううん、私はFクラスよ、ここに来たのはあなたに興味があってね」

「僕に?」

「そう! ねえねえ、あなたどういう事情があって学園にいるの?」

 興味深い顔をして僕に迫ってくる女の子、僕たちはお互いの息がかかりそうな近い距離まで密着した。

「あのさ、ちょっと近すぎじゃ……」

「えっ……? ああ! ごめんなさい」

 彼女は僕の言葉に気がついて顔を赤くしてパッと離れる。

「えへへ、ちょっと焦りすぎちゃったかな?」

 ばつの悪い表情を浮かべると少しだけ乱れた服装を整えた。



「Fクラスの人が僕に何か用なの?」

「さっきも言ったけど私があなたに興味があるのよ」

「興味?」

「そう、だって不思議じゃないこの学園は全寮制の女子高よ? それにふさわしくない男子生徒がいるってことに」

「それは……」

 彼女の言葉に僕は何も言い返せない、だって彼女が言っている事は間違っていないからだ。

 女子高に男子生徒がいるなんて言うことは普通に考えたら可笑しいってすぐにわかる。

「だから気になって聞いてみたくなったのよ。小鳥遊勇人君」

「僕の名前を知ってるの?」

「ええ、Aクラスに私の友達がいるからその子に聞いたの」

「聞いても別に面白いことでもないし……特に大きな理由もないよ」

「ふーん」

 本当はちゃんとした理由があってここにいる、神崎さんに他人に話していいことじゃないって言われたから彼女に教えるわけにはいかないんだ。



「どうやったら教えてくれる?」

 彼女はどんどん僕の方に迫ってくる、逃げ場が無くなって教室の隅まで追い込まれた。

「ごめん。どうしても他の人には話せない事情なんだ」

「そう……小鳥遊君が話せないって言うなら仕方ないわね」

「本当に理由を聞かないの?」

「あなたが話せないって言ったんでしょう? だったら無理に聞き出せないわよ」

 彼女は僕が思っていた以上にいい子なのかもしれない。なんて初対面でしかもまだ名前も知らない子にそんな印象を持つなんて。

「そう言えばまだ自己紹介がまだだったわね。私の名前は相倉麻奈実あいくらまなみよ、よろしくね」

「小鳥遊勇人です。よろしく」

 自己紹介を済ませて彼女と一緒に寮へと戻る途中──特に会話は無かったけれど、相倉さんは時々こっちに視線を送っていた。



「じゃあ僕はこっちだから」

「うん、またね」 

 男子寮の方へ向かって歩き始めて少ししてから後ろを振り返ると相倉さんは僕に気づくと手を振ってくれた。

 僕も彼女に手を振り返してどこか照れくささを感じたけど悪くない気分だ。

 相倉さんは僕の姿が見えなくなるまでずっと同じ場所に立っていた。

 ごめん……僕がここにいる理由を話せなくて、周りに嘘をついて生きているってこんなにも心苦しい、ものなんだろうか……? 

 僕のお嫁さんを選ぶためにこの学園に編入されたこと、通っている全ての子にその使命を背負わせてしまっていること、彼女たちの将来に大きく関わっていること、考えてくると胃が痛くなってくる。



「小鳥遊君、何かすごいことに関わっているんじゃないかなあ」

 彼の態度を見てすぐに予想ができた、何かしらの大きな要因があってそれが関係しているんじゃないかな? 彼があそこまで頑なになる理由はもしかして──

 一度女子寮まで来たけどある予感がしてもう一度校舎に戻った。



「理事長いるかな?」

 取り合えず理事長室の前まで来てみたのはいいけどもしもいなかったらどうしよう? なんていう不安も浮かんで来た──私は意を決して理事長室のドアをノックした。

「どうぞ」

 反応があるっていう事は理事長は中にいる、一呼吸置いてからドアを開けて中に入る。

「あら、あなたは確かFクラスに所属している相倉麻奈実さんね。今日は何か用かしら」

 理事長は手元にある書類から私の方に視線を向ける。若くて綺麗な女性で女の私でも素敵だって思える。

「あの、こんな事を聞いていいかはわかりませんがどうしても気になってしまいまして」

「何かしら? 疑問を持つっていう事は大事なことよ」

 理事長は優しい表情で私に微笑むと緊張している私に座るように勧める。

「それで? 聞きたい事っていうのは」

「はい、あのっ……Aクラスの小鳥遊勇人君のことです」

 私の口から彼の名前が出てくると理事長は一瞬驚いた表情をするとすぐにいつもの顔に戻った。

「小鳥遊勇人君について何を聞きたいのかしら?」

「彼がどうして学園にいるのかなって何か事情が無いと女子高に男子生徒を入学させることなんてふつうはしませんよね?」

 私は思っていた疑問を理事長にぶつけてみた。ちゃんとした答えがもらえるのかはわからないけれど……



「理由ね、あると言えばあるわ。ただ、それはこの学園の存在意義にも関わって来ることだから簡単に話すことじゃないって思うの」

「どういう意味ですか?」

「でも、確かに相倉さんみたいに疑問を持っている生徒が殆どだと思うし、学園側もいつまでも本来の理由を隠して生徒たちを欺くのもいけないことだと思う。けど、生徒たちに事実を公表するかは私ひとりじゃ決めることはできないの」

「そうなんですか?」

「ええ、あなたが考えている以上に大人の世界っていうのは面倒なのよ」

 理事長は紅茶を私の前においてお茶菓子をいくつか袋から取り出して椅子に座る。

「あなたが本当にプロジェクトに真剣に取り組んでくれるっていうのなら理由を話して上げてもいいわよ?」

「そこまでしないといけない理由があるんですか?」

「あるわ。だってこれは未来にも繋がることなんだから」

「良かったら聞かせてもらえますか?」

「それでは相倉麻奈実さんはあなたは恋愛に対して真剣になれるかしら?」

「ええ!? 何ですかそれは」

「これから私の話すことは全て事実よ。それを聞いてあなたの意思がどう変わるのか? 知りたいわね」

「ハーレム・プロジェクト──正式名称自然繁殖推奨プロジェクト。それは未来に希望を持たせてくれる大きなプロジェクトなの」



 私は理事長の口から驚く事実を聞くことに──恋麗学園に通う生徒全員があの小鳥遊勇人君のお嫁さん候補でしかも学園側は彼にふさわしい女の子を育てて、ひとりでも多くの子と恋愛関係を持ってほしいと。

 それが自然生殖に繋がる行為で未来の私たちのために自然的な人口増加と繁栄を目指す一大プロジェクトだっていうことを知った。

 私は入ってくる情報を整理しきれずにただ唖然とするしかなかった。



「別に小鳥遊君と恋愛関係にならなくても良いっていう子もいると思うそうなると学園にいる意味がないから他の学校に移ってもらうわ」

「彼にふさわしいお嬢様を育てることが私が託されたことでもあるの」

「そんな事情があったなんて全然知りませんでした……」

「私が理事長に就任したとき小鳥遊君のお母さまとの間で進められていた話だったのよ」

「そういえば相倉さんは小鳥遊君にはあったのかしら?」

「はい、Aクラスの教室で会って少しだけ話をしました」

「そう、あなたから見て彼はどう?」

「まだ何とも言えません……」

 だってちゃんと話したわけじゃないし、正直彼がどういう人間なのかもわからない。

「これから仲良くなっていくっていう形でも全然問題ないわ」

「それは私が決めます。理事長の言われたプロジェクトに反するつもりはないですが」

「あらそう? だけどあなたが小鳥遊君に選ばれない場合だってあることはしっかりと理解しておく必要はあるわよ」

「プロジェクトの期間とかはあったりするんですか?」

「ええあるわ。彼が学園を卒業するまでの間っていうのが一時的な期間よ」

「一時的ですか?」

「この間で無理なら大学進学も含めて新しく検討し直さないといけないの。学園に通う間一人以上は恋愛関係を結べる相手がいないとおしまい」

「そのプロジェクトに学園に通う私たちの意思は関係ないんですか?」

「もちろんあるわ、嫌ならそれでもいい。だけどこの学園にいる必要は無くなる。まあ、うちに入学している子たちなら他の学校に行ってもやっていけるわ」

「ただ、うちを出ればもっと素晴らしい将来が約束されているし、それを捨てるって選択をする子がいるとは思えない」

「近いうちに生徒たちに公表して競い合ってもらうのも考えているのよ。実は、今いる上級生は一部を除いて進路はもう決まっていることいるのよ」

「今年からプロジェクトが始まったからそれ以前に明確な将来を考えている子はその道に進んでもらうわ。本人たちが希望すれば卒業はさせるけど学園に残ってもらってプロジェクトに参加するのも選択肢として用意してるわ」

「もっといい未来が約束された時一体どういう行動を取るのか? それはあなたたち次第ってこと、だから今は彼に選んで貰えるような女性を目指して努力するべきね」

「話はこれで終わりよ。これからちょっと大事なこと用があるから外してもらえるかしら?」

「はい。わかりました」

「相倉さんも頑張ってね」



 理事長室を出た私はこれから先の事考えていた。

 正直まだ入学したばかりで、将来のことなんて考えたいなかったけど、理事長が言ったことが本当なら私も彼の結婚相手の候補に含まれている──でも、好きでも無い相手と結婚するなんてありえない。

 理事長に言われたことが頭の中を何度も行ったり来たりしていた。一旦部屋に戻ってから改めて考えよう。私は女子寮の自分の部屋に向かった。



「お久しぶりです美鈴さん」

「歩美? どうしたのこんな時間に電話なんてしてきて」

「ええ、実はハーレム・プロジェクトの件で少し相談しておきたいことがあります」

「何かしら?」

「今日勇人君が学園に通う理由を聞きに来た女生徒がいました。彼女にプロジェクトのことを話しました。それで私が考えたのはこの事は全生徒に公表することです」

「なるほど。確かにプロジェクトの最終的な目的を考えると妥当だわ。最終的な決定権はあの子にあるけれど、早めに学園側の方針が分かれば生徒たちも自分を磨けるチャンスができるわけだし」

「ええ、ですがそれで通っている生徒たちが納得するかどうか……」

「いいんじゃない? 納得できない子は他の学校に移ってもらうわけだから。まあ、候補はたくさんいたほうがいいけれどね」

「それぞれの子がどういう風にアピールするのかデータも取れるし、それに恋愛経験のない勇人がどういう選択をするのかそれが重要なの。あの子が多くの遺伝子を多く残すことはこの先の未来にきっと役に立つ」

「だからこそ、このプロジェクトは絶対に成功させる必要があるわ」

「はい」

「学園での勇人の事は歩美に任せるわ。また何かあれば連絡して」

「わかりました。それじゃあ私は仕事に戻ります」

「いつも本当にご苦労様」



「……この先の未来ね」



 神崎さんからの連絡で僕は今日は一日休んでもいいと言われた。なんでも全女子生徒だけに特別な集会があるらしい。

 詳しい内容は聞かされているわけじゃないけれど休んでいいと言われてから素直にそうさせてもらおう。

「ここ最近慌ただしかったからゆっくり休もう」

 ベッドに寝転んで目を閉じる──あっという間に眠りに落ちた僕はその日は起きることはなかった。



「ふぁ」

 朝起きて欠伸をする。昨日はずっと眠っていて一度も起きなかった。体がべたついているからシャワーでも浴びて来ようと着替えを持って風呂場へ──



 シャワーを浴び終えて制服に着替え終えて登校の準備をする。この間あった相倉さんは確かFクラスとか言ってたっけ? クラスが違うならあまり会うことはないんだろうな。

 小阪さん以外でまともに会話した相手で、僕に興味があるって言ってたけれど。


「それにしても綺麗な子だったなあ」

 彼女と密着したときに女の子のいい匂いがした、澄んだ瞳と青い髪が印象に残っている。

 ああいう風に女の子と触れ合ったことなんて今まで一度もなかったからかなり緊張した。

 僕が学園にいる理由を聞きたがっていたけれど、本当のことが話せなかったのは悪い気がした。



「今日は朝から随分と騒がしい」

 寮から教室まで向かう途中、何人もの女子生徒が僕に視線を送っていた──その視線はこの間とは打って変わってどこか困惑も入り混じっているような独特な雰囲気も感じ取れる。



「おはよう」

 挨拶をして教室に入ると今まで僕のことなんて全く気に留めていなかったクラスメートが一斉にこっちを振り返る。

「おはよう! 確か小鳥遊君だよね? 私、同じクラスなんだけど──」

「ちょっと抜け駆けする気! 私が最初に声をかけようとしてたんだけど」

「なによ! あんたがトロイのが悪いんじゃない?」

「なんですって!」

 二人は僕の前でああだこうだと言い合いを始めてしまう。

「ちょっとあんたたちそんなのだと小鳥遊君に選んで貰えなくなるんじゃない?」

「ううっ……」

 騒ぎを見ていた子にそう言われると彼女たちは黙ってしまう。僕の周りには数人の女子生徒が集まっていた。

「ねえねえ、それよりもさー私、小鳥遊君と話してみたいと思ってたんだー」

「ああ! あんた最初は男子なんて興味ないなんて言ってたじゃない!」

「なによー別にそれ今言うことじゃないでしょう!?」

「それよりもさ小鳥遊君が自分の席に行けないでしょう? あんたたちも少しは考えなさいよ」

「ああ、そうだったね、ごめんなさい……」

 周りにいた女の子たちはさっと退いて道を開けてくれた。

「これは一体……」

 僕は今の状況が理解できずいる。何かあったんだろうか? そんなことを考えながらようやく自分の席に到着。



「おはよう」

 いつものように隣に座っている子に挨拶するけれど彼女は反応しない。だけど、今日は一瞬僕のほうを見て

「……おはよう」

 と挨拶を返してくれた。僕はそんな彼女の様子に驚いた。

 何なんだろう? 本当に今日は、自分の席に座ってからも落ち着かなかった。


「ちょっといいかしら」

「小阪さん? 僕に何か用かな」

 ホームルームが終わってすぐに小阪さんが話しかけてくる。彼女は僕が最初入学した時に話かけて来たけど今はなんか違う感じだ。

「あ! 小阪さんずるいですわよ。わたくしたちも小鳥遊さんとお話ししたいんですのに」

「最初に声をかけたのは私ですわよ」

「まあまあ、落ち着いてよ。話があるって言うのならちゃんと聞くからさ」

 僕がそう言うと小阪さんはこっちをじろりと睨んで僕のほうに体を向き直してくる。

「まずお聞きしますが理事長がおっしゃったことは本当ですの?」

「理事長? 何か言われたの」

「あら、あなたもしかして何も聞いていらっしゃらないの」

 小阪さんの言葉にクラスメートたちがザワザワとし始めた。

「あの、どういうことか教えてもらえるかな?」

「私たち、いいえ、この学園の女子生徒全員があなたの結婚相手の候補になっているらしいということですわ」

「ど、どうしてそれを小阪さんが知ってるの!」

「この間の全校集会で理事長の口から聞かされたんです。いきなりのことで私も驚きましたわ」

「ええっ……」

 神崎さん僕には他の人に話さないようにって言ってたのに一体どうしてこんなことになっているんだろう。

「その反応から察するとあなたは本当の事を聞いてらしたのね」

「うん」

「私は純粋に学べると思ってこの学園を受験したのにそんな裏があったなんて……」

 がっくりと肩を落とす小阪さん。そうだ彼女は将来のことをしっかりと考えていたんだろう。それなのに僕なんかの恋人候補なんていう話を聞かされたら納得できないっていうのはわかる。

「それじゃあ、小阪さんは脱落ってことでいいんじゃない?」

「えっ……?」

 声のした方を見るとひとりの女の子がドアの向こうに立っている。

「相倉さん! どうして君が」

「どうしてって、私は小鳥遊君に会いに来たのよ!」

 そういうと彼女はドアから1-Aの教室に入ってきて、僕の机の傍まで歩いてくる。

「理事長からハーレム・プロジェクトの事を聞いたけど私は真剣にやるつもりよ!」

 僕の傍まで来た相倉さんはクラス中に聞こえるような声でそう宣言する。



「これはまたとないチャンスよ! 今まで退屈だった生活が変わるいいきっかけになるかもしれない。もちろん最終的に小鳥遊君に選んで貰えないと意味がないけどね」

「この学園通っている以上は彼の恋人になれるように努力するだけ! まあ、小阪さんみたいにやる気がない子が脱落するのはライバルが減るし、私からしてみるとありがたいことだけど」

「な! なんですってぇ」

「他の皆はどうなの? まあ、真剣に参加するつもりがないんだったら理事長は他の選択肢も色々と考えているみたいだけど」

 相倉さんはそう言うとAクラスの教室を見回す──クラスメートの視線が一斉に僕に集まる。

「あなたたちは彼と同じクラスだっていう有利があるけど私は負けるつもりなんてないから」

 自信満々な相倉さんに誰もが驚きを隠せないでいた。

「ねえ小鳥遊君。今日のお昼ご飯一緒に食べない? 私、お弁当作ってきたの!」

「えっ……う、うん。いいけど」

「やったーありがとう!」

 全身を使って喜びを表現する相倉さんこの間教室でのできごともそうだけど彼女はとても元気のある子だと感じた。

「よろしくね! 小鳥遊君」

 僕にウィンクするとホームルームの始まるギリギリの時間まで僕の傍を離れようとしなかった。

 相倉さんの宣言で学園中の女子がハーレム・プロジェクトにやる気になっていくのだった。

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